S.Arendt

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やわらかな日差しが差し込む部屋にあるベッド

その上には人が寝ていて、周りを大勢が取り囲む
手を握ったり感謝などの言葉を伝えたり…

アーレントはその中で浮いていた

戦死する者を見送ることが多く、このように面と向かって
火が消えていく瞬間に立ち会うことがなかったからだ

「おいで、私の友…アーレント。」

この子の声はここまで弱々しかっただろうか、
伸ばされた手はこんなにも皺ができていたのか

流れる時の違いをあまり気にした事がなかった
だってどうせみんなすぐに死んでしまう

なんて声をかければいいんだろう
どうしよう、と手を握り立ち尽くす

“……ぁ、………。”

ぱくぱくと口を開いては閉じて言葉を探す

「泣かないで、アーレント。君を置いて行ってすまない。
 我が孫たちとも仲良くしてやってくれ。
 今まで本当にありがとう。」

困って泣き出しそうな表情だったアーレントを見て、
金髪の前王は話す

今にも消えそうな声でゆっくりと


“…僕は今まで涙が出て泣く、という経験をした事がない。
 でも、君が言うなら…そうなのかもねぇ。
 君と過ごした約80年はとても楽しかったよ、クランツ。
 よくここまで生きてくれた。僕が飽きるまではこの国に
 いるから安心するといい。”

ふわ、口角をあげ王は頷く

「良い、人生だった。グランローヴァ様と友人になれただけ
 でなく良き妻と賢い子供達ができた…ありがとう…」

そう 言って
彼の瞼が下りた

皆が涙を流し、別れを惜しんでいる

“…ゆっくりおやすみ、クランツ。またいつか、どこかで。”

寂しげに微笑むアーレントは幼子をあやすように頭を撫でた

その数年後、彼の孫娘のデビュタントのお相手はクランツ王と揃いの礼服を来た淡い青や紫がかった銀髪の人物だったそうな……

12/1/2024, 7:18:35 AM