金零 時夏

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キャンドル

小さい頃、夜眠れない時に必ずすることがあった。とある夏のこと。

「ばーば、なんか分かんないけど起きちゃった。寝れないから´あれ´して?」

カラカラと揺れる椅子に座って、編み物をしていたおばあちゃん。こうして眠れない時は、甘えたような声を出しておねだりをするのが決まりだった。俺がそう言うと、ふんわりと優しく微笑んで「お母さんには秘密だよ?」なんておどけて見せてくれる。
「うん!」と無邪気に頷く。おばあちゃんの家の雰囲気は、レトロでお洒落だった。
カントリーな家具、いい匂いのするお花。可愛らしい人形は、おばあちゃんの手作りだ。
おばあちゃんはよっこいしょ、立ち上がり俺をベランダの方に連れていってくれる。

「今日はなんの本を読んで欲しい?3冊まで持ってきていいわよ。」

本棚には、たくさんの絵本が並んでいた。白雪姫、オーロラ姫、アラジン。
でも俺はその中でもシンデレラが一番好きだった。当時正義のヒーローに憧れていた俺は、可哀想なシンデレラをたくさんの中から見つけ出してくれる王子様が、大好きだった。悩みに悩んだ末、シンデレラと赤ずきんを持ってベランダに向かった。

窓を開けた瞬間、もあっとした空気が、俺を包み込んだ。ふわっと夜風が吹く。空気は湿った感じなのに、風は冷たくて爽やか。お洒落な深緑の椅子に座る。
おばあちゃんはマッチを1本取りだして、しゅっと、火をつけた。赤、黄色、白。カラフルな蝋燭1本1本に火を灯した。おばあちゃんの優しい読み聞かせと、丁度いい夜風に吹かれて静かに意識を落とした。
緩やかに笑みをこぼすおばあちゃんは、俺の事を優しく抱いてベッドに降ろした。
____キャンドルは、青白い月と共にゆらゆらと光を放ち続けていた。

11/19/2022, 10:56:08 AM