wtプラス、819プラスネタ

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夏の匂い、とか春の足音、とかそんなのわかるほど繊細な人間じゃない。この耳は1番大きい音だけを都合よく拾う。「おら、何してんだてめー!」「ぎゃ、最悪、諏訪さんに見つかった!」ひょい、とガードレールを超えて走りながらマップを確認する。高台から降りるしか選択肢がなく、少しひらけた道路に足を踏み入れた瞬間「ぉ、わっ、と!」左奥からの殺意は に反射で避けたものだからバランスを崩す。「追い込め!」誰かの声に振り返った視線をもう一本の射線が通る。思わずのけ反る体はどこに重心を傾ければ保てるのかわからないほど、グラグラと揺れる。「集中攻撃きんしー!」四方八方からの攻撃全てに大きな声で応戦すれば、また1本の射線が入る。「荒船、容赦しなさいよ!」「訓練の意味がねーだろ!」言うが早いか屋根から飛び降りる影は左に弧月を抱えている。「スナイパーのくせに。正々堂々戦いなさいよ」「うるせーな、使えるもん使って何がわりーんだ」ジリ、と相対した2本の弧月、目の前の荒船だけじゃなく、どこから狙っているスナイパー、最初に追ってきた諏訪、ここの騒ぎを聞きつけて集まる他の戦闘員、全てに注意を払う。『ナマエ先輩、2時の方向』頭に響く声が届く前に体を反応させる。倒れ込む体の向こうに太刀筋が見え、荒船に直撃する。「ちっ、辻かよ」負け惜しみのような声とほぼ同時に背中を抱き止めてくれる腕、少し向こうに諏訪の悔しそうな顔が見える。「辻ちゃん、助かった〜」「先輩、声デカすぎ。あれじゃ見つけてって言ってるようなもんです」呆れる声は相変わらず控えめで、そんな彼がアタッカーなんてポジションにいることも面白くて。「辻ちゃんにも聞こえるようにね」内部通話で話せばいいだけなんだけど、切り替えてる間に声が出てしまう性分なのだからしょうがない。辻を横目で見れば俯き加減の顔が少し赤い。「辻ちゃん、どした。具合悪い?」「……俺は、先輩の声ならどこにいたって聞こえてます……から」「?!……ちょ、なに告白してんの」訓練中に、とこぼせば「訓練終わったら、ちゃんと言います、から」「えっ、あ、ハイ」今度はこちらが赤くなる番「訓練中にいちゃついてんじゃねーぞ」追いついてきた諏訪が心底嫌な顔でそんなこと言うところまで。

耳を澄ますと

5/4/2024, 11:40:58 PM