紗夢(シャム)

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【特別な存在】【ところにより雨】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

3/25 AM 11:50

「《特別な存在》って、
 都合のいい言葉よね」

 部活が終わって、体育館からの移動中、
 綾音(あやね)がボヤくようにそう言った。

「え、なんで? 《特別》なのに?」
「だからよ。《特別》って思わせぶりな
 言葉じゃない。でも、《特別》って
 恋愛感情じゃなくても使えるでしょ」
「確かにねぇ。付き合う気がないくせに
 その言葉を簡単に使う卑怯な男って
 いるわよねぇ」

 心愛(ここあ)が素直に疑問を口にすると、
 綾音と暦(こよみ)先輩がすぐさま答える。

「あー……。なんとなく言いたいこと
 分かった気がする……」
「他の人より好感とか親しみは持ってる。
 でも異性としての魅力を感じてるのとは
 違う。だけど、離したくはない。
 それで《特別な存在》っていう
 心を揺さぶる言葉を使って
 繋ぎ止めようとする。そういうこと?」

 美羽(みわ)が遠い目をしている内に、
 瑠宇依(るうい)が相変わらず
 分かりやすくまとめてくれていた。

「ええっ、そういう意味なの!?
 《特別な存在》なんて言われたら、
 嬉しくて舞い上がっちゃうんだけど!」
「勿論、ちゃんと唯一無二の愛しい人
 という意味で使う場合も多いと思うわよ?
 でも、綾音ちゃんが言った通り、
 煮え切らない都合のいい言葉として
 使われることもあるから、
 心愛ちゃんみたいに素直な子は
 気をつけた方がいいかもしれないわ」
「そんなこと気にしなくていい
 爽やかな恋愛がしたいです、先輩!」
「……で、宵。あんたは話に全然乗って
 来ないで、スマホで何してんのよ?」

 綾音が振り返って、後ろを歩いていた
 アタシに言う。

「……雨が降りそうだと思って」
「ほんとだ。外が暗くなってきてる」
「そういえば、朝の天気予報で
 ところにより雨って言ってたっけ。
 雨雲の動き、どんな感じ?」

 美羽がアタシのスマホ画面を覗き込む。

「あと15分もすれば、雨が降りだすわね」
「ちょっとスクロールして。
 ……1時間もすればやみそうじゃない?」
「じゃあ、雨宿り兼ねてスイパラでも
 行こうよ」
「そうね。女子会して、宵にも少しは
 恋愛に興味持たせないと」

 美羽と心愛がアタシの腕を掴む。
 行かないとは、言わせないつもりの
 ようだった。

3/25/2023, 9:29:13 AM