また会いましょう
「また会いましょう」
微笑みながらそう言ったそいつは踵を返す。
待て、と手を伸ばして止めようとしても空を切るだけ。ベッドから起き上がろうとしても満身創痍でボロボロなこの体じゃ何もできなかった。
ダメだ、行かないでくれ。あんたはここにいる誰よりもどんくさくて、弱っちいから。誰よりも優しくてあたたかい心を持っているから。頼むから行かないでくれ、俺を置いて。
こんな体じゃあんたを守ることもできない。お願いだから、戻ってきてくれ。
怖いから、なんて軍人らしくない理由だって、今なら怒らないし、からかったりしないから。だから、戻ってきてくれ。
でも俺はあいつのことを誰よりも知っている。
いざというときに頼りになるところも、仲間のためなら無茶してだって戦うところも、いつだって戦場で死ぬ覚悟のできている軍人だということも。よく知っている。
だから、生きて帰ってきてくれ。こんなのを最後にしないでくれ。まだまだあんたとしたいことがいっぱいあるんだ。
行きたがっていたカフェにだって付き合うし、偉そうにうんちくを語るのだって邪魔しない。もっと知らないことをいっぱい教えてくれよ。
まだ伝えられていないことがたくさんあるのに。死ぬな、死ぬなよ。生きて帰ってこい。
これは上官からの命令だ。必ず生きて、帰ってこい。
「会いに来たぜ」
そう言った男は手に持っていた花束をそっと置く。
「ほんと、相変わらずどんくさいなぁ。弱いし、俺がおらんと何もできんのに。……いっつもおれの言うことをなんだって、きくのに。めいれい、いはんや、ぞ」
だんだんと瞳にたまる涙をこらえるように、震える声でそう言った。
石に掘られた名前を愛しそうに撫でて、空を見上げる。
「つぎ会ったら覚悟しとけよ。絶対離したらんからな」
もし次の生があるのなら、もう一度あんたに会いたい。今度こそちゃんと愛を伝えて、何度だってこの想いをぶつけよう。
だから、次があることを願って、また会いましょう。
11/13/2022, 12:43:27 PM