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「誰にも言えない秘密」

大きくため息をついて天を仰いだ。もうどうすることもできないのか。一点の曇りもない青空に嫉妬する。私だってそのように生きたい。堂々と真ん中を歩き、これが私ですと、笑っていたい。

平家の落人狩りなど冗談だと思っていた。千五百年以上前のことを持ち出して、今さら平家も源氏もないだろう。しかも源氏は実朝の代で終わっているはずじゃないか。

タイムマシンが実用化されてからというもの、過去に行き違法行為をする者が後を絶たない。私などそんな輩に母を特定されて殺されでもすれば生まれなかったことになる。

平資盛の落し胤が我が家の始まりだと、これは代々口伝で伝えられてきたことだ。資盛が都落ちする前に恋人の元を訪ねた際に授かった。壇ノ浦で入水した資盛さえも知らぬことだ。女は懐妊がわかると密かに元の恋人であった藤原の某に助けを求め、この下級貴族の子として生を受けた。

平家の残党狩りは凄まじかった。それはそうだろう。情で流罪にした頼朝が平家を滅ぼした。一人残さず殺さなければ安心して眠れなかったであろう。

それでも我が祖先は生き延びた。自分が育てていては資盛の子とわかるだろうと、母親は泣く泣く子と別れ、生涯会わなかったそうである。藤原の某は地方の荘園の片隅に密かに住まわせた。長じてたくましく成長したその子は某に出自を聞かされて以来、山奥にこもり乳母の一家ともに暮らしてきた。

明治維新後は隠れることなく百姓として小松を名乗りそれが現在まで続いている。全てを詳らかにするには時間が足りない。かんじんなのは今だ。もう何で小松を名乗った?藤原にしときゃよかったんだよ。山の中だから山藤とか。

すでにリストアップはされているだろう。本籍を調べたらわかることだ。何百年か前に落人の里を歩いた人が本を出した。その本に何代前か知らないが、先祖が載ってもいる。

それにしても、源氏が滅んだのは自滅だろ?今さら平家を捕まえても仕方なくない?

新しいニュースが入った。平家の残党狩りを推し進めているのは、頼朝のご落胤だそうだ。実朝だったらまた違ったんだろうけど。

私はどっちに進めばいい?どうすれば一子相伝の秘密を守れる?まだ子どももいないのに…

6/6/2024, 1:19:10 AM