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蝶々結び

「幼なじみの男の子と距離近すぎない?いつか彼にも彼女ができるんだろうし邪魔しちゃダメよ」
その“彼女”というのはあなたの息子ですよと言ったら母はどんな顔をするだろうか。
まだまだ同性愛に対しての偏見が強いこの国で僕たちが手を繋いで歩くことは難しかった。
幼稚園の時からずっと一緒の彼に対する恋心を自覚したのは小学生の時だった。彼はかっこよくて性格もいいからもてる。彼女が出来たという報告をきく度にベットに潜ってひとり泣いた。
感情を抑えきれなくなり、泣きながら伝えて縁を切ろうとしたら向こうも同じ気持ちでいてくれていることを知った。友達がパートナーになったけれど四六時中一緒なのは変わらなかった。それなのに、母親の感というのはなんと鋭いものなのだろう。
問い詰められて言わざるを得なかった。異端視されるのは覚悟していたけれど実際にされるのは辛かった。
「好きなら相手の子の幸せを願いなさい。」
そう言われてはっとした。何となく避けるようになった。学校も部活も一緒だから話しかけてくれるけれど、そうするしかなくて辛かった。けれど相手はその方が幸せになれると思ったから別れる決心をした。

家を5時に出る。少し早めにグラウンドについて体を温める。今日の放課後言おうと思って緊張して寝付けなかったからか、体がなかなか温まらない。
寒い。震えが止まらない。寒さからだろうか、きっとそうだと信じたい。彼が隣にいてくれなくて自分はこれからどうしたらいいんだろう。そんなことを考えてしまって気が落ち込んだ。イヤフォンからは一緒によく聞いていた曲が流れて楽しくて幸せな日々を思い出してしまって、いつの間にか地面に小さな池が出来上がっていた。
「おはよう」
はっと顔を上げると、大好きな人がいた。
「泣いてるの?」
そう言って涙を拭ってくれるから余計に止まらない
もう触れないでって思わなければいけないのに、優しい手つきが嬉しいとしか思えなかった。
「あのね、別れよう」
「どうして」
「幸せになれないよ、同性婚は認められてないし子供も作れない。子供大好きなの知ってるよ。それに周りから気持ち悪がられる。この後もこういうの続くって考えると耐えられないんだ」
「靴紐、解けてる。」
僕が放った言葉に触れることなく彼はしゃがみ込んだ。
いつも解けてしまう靴紐を結んで?と頼むと結んでくれた、それもこれで最後なんだ
自分から別れを切り出したくせに哀しくて仕方がなかった。別れて、女の子と前みたいに付き合っていつか結婚して子を成すのだろうか。
どうして男に産まれてきてしまったんだろう、
どうして出逢ってしまったんだろう
どうして、好きになってしまったんだろう。

「解けても何度でも何回でも結び直すよ。不器用だけど綺麗な蝶々結びになるように。」
いつも一緒に聴いている曲だった。
「一緒にいたい。周りから認められなくてもいい。隣にいてくれることが何よりの幸せだから。ずっと結ばせて欲しい。」
起きたお日様の光を浴びて輝く蝶々は、今までの蝶々の中でも1番綺麗でゆっくりと羽を休めた。
「また結んでくれる?」
そう尋ねると優しく微笑みながら頷いてくれた。

6/22/2023, 3:13:13 PM