「特別な存在」
「だいたいこんなところか」
頭にタオルを巻き朝から部屋の掃除に追われている。
こんないかにもみたいな格好、いかにもなセリフを吐いている…それは何故か?
高校から付き合っている彼女と同棲が始まる日なのだ。
無事彼女は俺と同じ大学に合格し一人暮らしを始めるものと思っていたのだが…
彼女が大学に合格したとき大事な話があると告げられた。
受験前半年ほど彼女とほとんど会っていなかったこともあり「まさかな…」と一抹の不安を覚えながら待ち合わせ場所に向かった。
想いを伝えあった駅前の公園。
「先輩遅いです!」
「まだ5分前なんだけど」
「彼女より遅いとかありえないですよ!」
「…なにそのルール初めて聞いたんだけど」
「なんで先輩ちょっとニヤついてるんですか?キモいですよ!」
「うるせぇ」
「冗談ですよ先輩っ」
彼女の言葉にほっとして顔が無意識にほころんでいたらしい。
「で、大事な話って何なんだ?」
「えっと…ですね…あの…とりあえずあそこ座りましょ」
「あ、あぁそうだな」
二人で座ったベンチ、その場所はあの時の…
彼女は座った瞬間、俺に寄りかかり腕を絡めてきた。
お互い同じことを考えていたのだろう…しばらくお互い言葉を交わさずお互いの温もりを確かめ合っていた。
「先輩…私の夢覚えてますか?」
「…あぁ覚えてるぞ」
「それでですね…あのー…そのですね…」
「なんか言いにくそうだな…お前らしくないな」
「……」
「んーそれはお前の夢と関係あるのか?」
「……はい」
「…お前の夢叶えてやりたいし…俺もそうしたいと思ってるが今すぐは流石に無理だぞ…経済的なこととか、いろいろと」
「それは全然全然わかってます!それにちゃんとプロポーズもしてもらいたいですし!」
「お、おぅ」
「じゃなくてですね…あの…先輩と…同棲…したいです…」
「ふぇ!同棲?」
「はい!」
「いやいや…俺は嬉しいけど…親御さんが許さんだろ」
「それがですねー…もう許可はもらってます!」
「マジか!てかどこの馬の骨とも分からんやつとの同棲に許可するってどういうこと!」
「普通そうなんですけど…どこの馬の骨ってわけでもなくてですね…ただ1つ条件がありまして…」
「嫌な予感するわ…」
「…うちの両親と1度会って頂きたくてですね…」
「だよな…」
「ダメですか?…」
「…分かったよ」
「ほんとですか!ありがとうございます先輩!」
嬉しそうな彼女の顔を俺はどうしょうもなく愛おしく感じ強く抱きしめた。
3/23/2023, 4:39:37 PM