かたいなか

Open App

「個人的にさ。『連載は日常ネタ職場ネタとかが長く続けやすい』と思ってたのよ。生活してるだけでゴロゴロその辺にネタが転がってると思ってたから」
3月11日のお題が「平穏な日常」だったわ。某所在住物書きは過去の投稿を辿り、当時を懐かしんだ。
「実際書いてみるとほぼ砂金探しなのな。
生活して仕事して、その中にハナシのネタは川の砂ほど有るんだろうけど、じゃあ、実際にネタの砂をふるいにかけて、そこに『コレ投稿したい!』と納得できるハナシの砂金は、何粒残りますか、っていう。
なんなら、眼の前に明確に書ける砂金が有っても、絶対何割か見落としちゃってますよねっていう」
まぁ、だからなに、ってハナシだがな。「多分それお前だけだよ」って言われても反論できねぇし。
物書きはため息を吐き、天井を見上げる。

――――――

今日も、ようやく仕事が終わった。
自分のルーチン片付けて、上司に決裁だのお伺いだのたてて、新しい厄介事もといお仕事割り振られてそれ片付けて。その間に休憩で、お弁当食べたりして。
あと◯ヶ月で△のノルマ捌けってさ、って愚痴る。
それが私達の仕事。私達の日常。
なお面倒な仕事を平気で部下にガンガン押し付けて、自分は楽な作業だけしてる上司は全員滅べばいいと思う(※個人の感想です)

仕事が終わったら、職場の先輩と一緒にマッケに寄って、今週あと1日頑張りましょうのご褒美にマッケシェイクのバニラとストロベリーを、Sサイズで。
ネット情報だ。マッケシェイクは、Mを1個買うより、Sを2個買う方がお得らしい。
ホントかどうかは分からない。

「これからもさぁ。ずっと、続くのかな」
ちゅーちゅーちゅー。先輩の糖質量チェックの視線を感じつつ、でも飲みたいものは飲みたいので、まずストロベリーのシェイクから。
「春にノルマ来て1年でさばいて疲れて、その間クソ上司にこき使われて、また春が来て……って。
それが、ずっとずっと、日常に、なっちゃうのかな」

「この職に就いている間は、そうだろうさ」
なにを今更分かりきったことを。そう付け足す先輩は、プレミアムコーヒーのブラック。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、いつも感情ほぼ平坦な先輩の機嫌が今日は良い。昨日数年ぶりに甚平を新調して、それをすごく気に入ったからだって。
「嫌なら転職した方が良い。合わない仕事を無理矢理続けて、それが恒常化して、ストレスを溜め込み過ぎては、事実として心にも脳にも、すごく悪い」
つらつらつら。海馬が云々、血中コレステロールが云々、先輩は相変わらず、難しいことを解説するけど、そのすべてが相変わらず、なんていうか、他人事だった。

クソ係長に仕事振られて、疲れてるのは、先輩も一緒なのに。ストレスかかってるのは先輩も一緒なのに。
いつも先輩のアドバイスは、私ひとりだけに向けた表情で、言葉で、抑揚だ。
これも、ずっと、日常であり続けるのかな。

「不服そうな顔だ。どうした」
「べっつにー。なんでもないでーす」
ちゅーちゅーちゅー。ごろごろごろ。
ストロベリーシェイクをスッカラカンに飲み終えて、間髪入れずバニラに口をつける私を、先輩は少し不安そうな目でチラ見した。
その後バツの悪そうな顔で視線を外したけど、多分、自分が何か悪いこと言っただろうかって考え中なんだと思う。

6/22/2023, 3:15:15 PM