フォンリー

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【風来人】



風が、、止んでいた



蝉が煩わしく耳を刺激する。
6畳半程の部屋に突き刺してきた音は幾度も飛び跳ね
耳を往復する。
がしがしと頭を掻きながらよれた服を正し、起き上がる。

今日はやけに風が強い。
そのおかげか、暑さを特に感じない。
これは嘘だ。
そうでも思わないとやってられない程に暑い。
空調は部屋にあるが、とてもじゃないが使えない。
これも今では高級品だ。
動きもしない空調を眺めながら涼しさを求めて冷蔵庫へと動く。
ゾンビのようなこの姿を人様になぞ見せられる訳がない。
さあ、どうしようか。頭が回らない。
仕事の続きでもと、パソコンに身体をむけるが、
どうやらパソコンも熱中症らしい。
動作がやけにトロイ。
文字がかけたらそれでいいのだが、それすらも今のこの子には難しいらしい。
時には作家らしく、紙に筆で書くか。

、、、進まない。
それはそうだ。パソコンよりも遥かに高スペックな私がこんな劣悪な環境で動作出来るわけがない。
良いものは良い所で動くものだ。
なんて脳内で一人語りをしながら家を出る。

まるで街全体が溶けているような、そんな感覚を
蜃気楼が魅せてくる。

こんな時、君が傍にいたら、、

、、、

何処に行こうかと彷徨っていたが、足は既に場所を決めていたらしい。

ふぅ。
文字通り一息ついた。

ここは私のお気に入りの場所だ。
今の若い子は一息つく時には、喫茶店や、それこそ
スタバなんて所にいくんだろう?。
私も学生時代は行っていたなぁ。

今私は河川敷にいる。
暑い時は水の傍にいるに限る!!

これは最早格言に近いな
貴女と会ったのもここだった。
風でよろけた私を受け止めてくれた。

よくある物語ならそれは逆なはずなのだがね。
今年でようやっと28になる男が異性に受け止められて
恥ずかしい限りだ。


左右を見回す。
誰もいない。
皆物陰で涼んでいるのか

なら私は。

どぼん。

ふぅー、これがいいんだな。これが。

ぷかぷかと漂う

後ろから声がした。

あれ?この前のー?今度はよろけて落ちちゃったんですかぁー?


逃げ場は無いようだ。
だが、確かに人がいないのを見たはずなのに。

彼女は寄ってきて私をすくい上げる

大丈夫ですか?

「ありがとうございます」

次は落っこちないように気をつけて下さいねー。

「えぇ、もちろん。あの、」

はい?なんですか?

「2度も助けて貰ってありがとうございます。」

いえいえ!困ってる人がいたら助けるのは
基本ですよ!!
なにせ私のせいみたいな所もありますしね!

「私のせい??」

あーー!いや、こっちの話です!でも!次は本当に気をつけて下さいね!

「本当にありがとうございました。
そういえば、あっ。」

視線を空に向けた。
風が、、止んでいた
宙へ待った視線を戻すと、そこに彼女は居なかった。

あれ?どこへ行ったのか。
まるで風とともに消えてしまったようであった。

6/26/2024, 6:31:20 PM