僕が中学生の頃、母親に謝罪された事がある。
「非凡な私の娘だから、貴女も何も才能がないの。
ごめんね。」と。
当時の僕は、というか今もだけれど、
これと言った才能がない事は何となく理解していたから
まぁそんなものか、と自分の胸に不自然に空いた
大きな穴を見て見ぬ振りをした。
本当は泣きそうなほど悔しかった。虚しかった。
とはいえ僕は絵を描く事は好きだった。
母親に見せても「自分には美的センスがないので
良さが分からない」と褒めてはもらえなかった。
ある日部活動(僕は文化系の部活に入っていた)の時間に
絵を描いていると、彼女がひどく気に入ってくれた事があった。
それは初音ミクのイラストで、背中に羽が生えたイラストだった。ただ、まだ色は塗っていない線画の状態だった。
彼女はその線画を譲って欲しいと言い出した。僕は軽い気持ちで描き始めたので当初色を付ける予定は無かったが、どうせ貰ってもらえるなら色を塗ったものを渡したいから1日待ってくれと申し出た。彼女は笑顔で快諾した。
僕はその日の夜、その線画をペンでなぞり色鉛筆で着彩した。おそらくこれが、初めて1人のために作り上げた作品だった。
翌日、部活動の時間に約束通り彼女に着彩したイラストを渡した。彼女は一瞬驚いたような顔をして、「塗った方が凄く素敵!」と褒めてくれた。その後も言葉を尽くして褒めてくれたのを覚えている。僕は面映かった。
才能がないとわかっていても、結局僕は未だに絵を描き続けてしまっている。描き続けられている。
愛があれば何でもできるとは思えない。
思えないけれど。
愛があるからできることは確かにあると僕は思う。
5/16/2023, 3:47:09 PM