「去年は『春爛漫なスミレの砂糖漬けが実家から大量に送られてきて、職場におすそ分けに持ってきたけど、クソな上司に食わせるのはシャクで仲間にはシェアしても良いと思った』っていうハナシ書いたわ」
春爛漫というか、気温が気温のせいで、既に晩春初夏の様相。某所在住物書きはスマホの週間予報を確認しながら、外の晴れ空を見た。
去年は夏日間近の日など、あっただろうか。
そもそも「春爛漫」の時期の気温とは、どのような暖かさ/暑さ/寒さであったろうか。
「……でも一応、エルニーニョ現象は、そろそろ終わるらしいってニュースでやってたな」
春って、なんだっけ。物書きはため息を吐いた。
――――――
今年も来年も、変わらぬ春爛漫を、と願うものの、
土地開発、メガソーラーに陸上・洋上風力発電機の大量展開、観光客増加にオーバーツーリズム、それから桜の咲く咲かぬ問題等々、
昨今、去年の春と今年の春が別物だったりする気がするこの頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。
未だに花見に行けないままの物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
宇曽野という男の一軒家に、その親友の藤森というのが居候しておりまして、
家賃の代わりに、日々の掃除やディナーの準備等々、家事の手伝いをしておりました。
藤森にも自分のアパートがあり、自分の部屋の家賃だって払っているのですが、
まぁまぁ、諸事情ありまして、後述します。
さて。今日も今日とて藤森、仕事の帰りに馴染みの地元スーパーに寄りまして、一日のフィナーレを飾るに値する割引食材を探します。
今年は桜の満開と、悪天候と大雨が重なって、更に夏日にせまる妙な温暖が続きます。
いつもの「春」は、どこへやら。
せめてディナーで季節を、春爛漫を感じてもらおうと、藤森、まず3割引の木の芽を取りました。
「山椒の葉だ。丁度良い」
それは雪国出身の藤森の、花咲く故郷の公園にも、山菜芽吹く小道でも、よく見かけた「春」でした。
「鶏軟骨の唐揚げにも、炙りの桜鯛にも使える」
まだ中学生という宇曽野の一人娘、最近低糖質に凝っているレディーには少し早いかもしれないし、
宇曽野にとっては桜鯛の木の芽焼きより、木の芽味噌と冷奴で酒のつまみの方が良いかな。
穏やかに笑う藤森は、木の芽と一緒に桜の花の塩漬けも、ちょっと奮発して買い物カゴに――
「おつかれ〜」
――入れようとしたら、桜の塩漬けの最後の1パックを、取る手が見知った男の手と重なりました。
「お前のアパート、とうとう加元にバレたよん」
男は名前を付烏月、ツウキといいました。
「お前の部屋の前に立ってて、俺が『何か用ですか』って大声かけたら、バチクソ慌てた様子で『なんでもないです』って逃げてったよ」
これこそ「後述」。藤森が自分の部屋を持ちながら、宇曽野の一軒家に居候している理由でした。
つまり、加元という元恋人に、独占欲強火の執着なそいつに、ヨリを戻そうと追われているのです!
一旦縁を切ったはずの相手が、藤森の職場にまで就職して押し掛けてきたものだから、さぁ面倒。
詳細は過去3月2日投稿分の2作品山椒、もとい参照ですが、スワイプが面倒なので気にしない。
要するに元恋人とかくれんぼしているのです。
付烏月は藤森の代わりに、藤森の部屋に住み、鉢植えひとつの世話をしたり掃除をしたりしているのです。
「付烏月さん、あなた自身に被害や迷惑は?」
桜の塩漬けは、その塩味と桃色で春おにぎりにできる。藤森が最後の1パックを掴みます。
「なーんにも無いよん」
桜の塩漬けは、その春らしさと可愛らしさで春クッキーにできる。付烏月も同じパックを掴みます。
「盗聴器とか、盗撮とかは」
「ぜーんぶ調べてもらった。なんともなかったよ」
ぎりぎりぎり、ぐぎぎぎぎ。
桜漬けのパックが左右双方から引っ張られて、
藤森の方に行って、付烏月に引き戻されて、
行ったり、来たり、行ったり、来たり。
「まぁ、そっちも、気を付けて……よっと!」
最終的に、フェイントを仕掛けて近郊を崩した付烏月が、満面の笑みでエディブルな桜を勝ち取ると、
それを見ていた商品補充の店員さんが、しれっと、きっと「自分のところの子供も似たことやってるなぁ」な感想だったのでしょう、
新しい、入荷したばっかりの、桜の塩漬けのパック詰めをザッカザッカ補充して去りました。
お気遣い、どうも。
藤森は新しい方のエディブル桜のパックを手に取り、カゴに入れて、「爛漫」と形容するには遠く、ぎこちないながらも、ふわり、笑いましたとさ。
4/11/2024, 1:41:08 AM