【やさしい嘘】
ある日、一本の電話がかかって来た
どこまでもやさしい声…母さんからだった
「私はこれから少し遠いところに行くの
お土産も買って来るから良い子で待っててね」
『うん、分かった、気をつけて行って来てね』
「えぇ、行ってくるわ」
分かってる、あれはきっと僕のことを思ってついた
やさしい嘘なんだ
母さんは病院に入院しているはずだから
そして、あれから父さんたちが慌ただしくしている
これで察せない程、僕は子どもじゃない
母さんがもう長くないことなんて
とっくに知ってた
けど、知ってたからこそ
それを認めたくなかった
“きっと元気になってまた3人一緒に暮らせる”
そうなる様に毎日毎日、お祈りもした
でも神様はそんな願いも聞き入れてくれなかった
棺の中、眠る母さんを見た
本当にただ寝ているだけで
ゆすったら起きてくれるんじゃないか
とまで思った
棺はゆっくりと焼却炉へ進む
沢山の人に見守られて
僕と父さんの下へ
少し小さくなった母さんが帰って来た
小さくなった母さんを見て
目の前の景色が少し歪み始めた
父さんに言われて
初めて自分が泣いているのだと気づく
やっと、僕も母さんが亡くなったのだと実感した
“さようなら、そしてありがとう…母さん”
久しぶりに母さんの夢を見て思い出した
あの日の出来事
ふと、カレンダーを見ると
今日は母さんの命日だった
『きっと会いに来いってことだよね、母さん』
スマホを取り出し、電話をかける
『俺だけど、今日、そっち行って良い?』
1/24/2025, 1:29:27 PM