No.55『猫を飼う』
散文/掌編小説
猫を飼い始めた。青く澄んだ瞳と真っ黒な毛並みが綺麗な子猫を。
「えっ、うそ。いま動かなかった?」
「何が?」
学校からの帰り道、見つけたのは一緒に帰っていた友達だった。コンビニのダストボックス横に無造作に置かれた黒いゴミ袋の中に、その子はいた。
「えっ、生きてるじゃん」
「ほんとだ」
小さくて今にも消えそうな命。生まれた間もなく捨てられたようで、臍の緒は付いてはいないものの、片手にすっぽりと収まってしまう。
「どうしよう」
「連れて帰ろう」
「えっ、飼うの?」
「うん」
友達が驚いているのは私たちが全寮制の高校に通っているからで、当然だけど飼える状態じゃないからだ。
「でも……」
「このまま放っておけないでしょ」
「それはそうだけど……」
袋から出してやり、両手で包むようにそっと。荷物は友達に持ってもらった。寮の入口には誰か見張りがいるでもなし、誰にも見られず部屋までそっと運ぶことも可能だ。
友達に手伝ってもらって、私は子猫を一週間前にルームメイトが転校して、一人部屋になったばかりの自室に連れ帰った。
あれから一ヶ月、その子は今も私の部屋にいる。汚れを拭いてやり、元気になったところで洗ってあげると、とても綺麗な猫であることが分かった。目が開くようになると、キラキラと輝く大きな瞳がまるで青空のように澄んでいることに気がついた。
首に結んだ赤いリボンは、この子と私をつなぐ赤い糸。まだはっきりと性別は分からないけれど、『いと』と名付けた子猫は今、私の膝の上で静かな寝息を立てている。
お題:赤い糸
7/1/2023, 9:54:54 AM