『キャンドル』2023.11.19
ロウソク。オシャレな言い方をするとキャンドル。
若い子にはロウソクよりキャンドルのほうが、耳馴染がいいかもしれない。
しかし、そこを変えてしまうと、噺の良さが消えてしまう。新作ならもしかしたらうまいこと工夫をすればウケるかもしれないが、名跡を背負っているてまえ、そういうわけにもいかない。
なかなかどうして、この名前を背負うというのは窮屈なものである。
「このキャンドルの火が消ぇると、お前は死ぬよ」
試しに言い換えてみるが、違和感しかない。何度も唇に載せているから、たった一つの言葉を言い換えるだけでこうも違うのか。
チャラ男だパリピだと言われている自分であるが、古典を重要視している。時間によって、場面を端折ったりすることはあるが、基本的には先代や他の師匠方から教わったままをかけている。
そもそもなぜ、ここまでロウソクとキャンドルで思い悩まないといけないのかというと
『言葉が難しくてわからない。もっとわかりやすい言葉を使ってほしかった』
というような内容の、メッセージをもらったからだ。送り主は今日、自分の高座を聞いてくれた学生さん。学校の授業の一環としてでの落語会だったので、そういう声もあるだろうとは理解していた。
しかし、難しい言葉や耳馴染のない言葉だからこそ、落語というのは光るのである。
なので、ロウソクをキャンドルに変えてほしいと言われても、どうすることもできないのである。
「アジャラカモクレンモモネギマテゲレッツノパ」
パンパン、と柏手を打つ。
まとわりついてくる嫌な気持ちを、そんな呪文で振り払った。
目の前では『キャンドル』の火が今にも消えそうになっている。
11/19/2023, 1:05:15 PM