#2『パラレルワールド』
普通に会話できたらどうなってたんだろう。
音楽を聴けたらどうなってたんだろう。
1人で出かけられたらどうなってたんだろう。
緊急事態に自分で気づけたらどうなってたんだろう。
耳が聞こえてたらどうなってたんだろう。
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「〇〇!」
「はーい!」
後ろから呼びかけられてつい大きい声で返事をしてしまった。友人に少し笑われたあと、一緒に前を向いて歩き出した。
「このあと何して遊ぼうかなー」
「カラオケ行きたい!」
「言うと思った笑いこ!」
全力で歌って、踊ってストレス発散できる。変なテンションで変な曲を歌ったり、本気で歌って点数を競ったり。特にすることがなかったらいつもカラオケに行くようになったのはいつからだろうか。
「よっしゃ〜、もう帰る?」
「時間も時間だしね。自分はスタバで飲み物買ってから
帰るわー」
「お金あって羨ましい」
好きなカスタム追加して、好きなチョコスコーンもついでに買って、店員さんにお礼を言って帰る。友人とは反対方面に家があるから、1人で帰るのは少し寂しいけど。
「今日も自分お疲れ様でした!よし、風呂入ろ」
好きな匂いの入浴剤を入れて、シャワーして、音楽聴きながらゆっくり浴槽につかる。幸せに囲まれて1日を終わる。
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耳が聞こえないと、後ろから呼ばれても気づけない、相手の顔や手の動きをずっと見ていないと会話できない、カラオケを楽しめない、買い物で店員さんとの会話につまづく、音楽が聴こえない、緊急事態に気づけない恐怖に怯えながら生活する。1人で帰るのはまだいけるかもだけど。
普通の人にとって当たり前のことができないのは辛い。でも…それでも、私は私なりの幸せな生活を送れてると思う。どんなことでも工夫すればできるようになる。
聞こえてる私と聞こえてない私が別世界で存在したとしても楽しく暮らせてると信じてる。性格が違っても、見た目が違っても、できることできないことが違っても、それが私だったら私だ。どんな自分でも自分は自分。
(何笑ってるの?)
(ううん、なんでもないよ!)
(そっか、ねぇ、あの2人楽しそうだね)
(今思ってたの、それ!)
(え、ほんとに?笑)
手話をして、友人と笑い合ったあと、こっそり口だけ動かしてみた。
『楽しいな』
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「もし耳が聞こえてなかったらどうなってたんだろう
ね」
「んー、でも変わんないでしょ。耳が聞こえる聞こえな
いとか関係ないよ」
「かっこよ!」
「あの子ら見てたらそう思うもん笑」
「ほんとにね笑楽しそう」
私たちと似たような見た目をした2人を後に私たちは歩き出した。そして、この世界に存在するはずのないあの子に向かって、
『ね、楽しいね』
9/25/2025, 2:11:55 PM