本番まで、あと5分ちょっと。
カーテンの向こう側から、ザワザワと観客の声がさざ波のように聞こえてくる。
アクション、演技、台詞回しは全部覚えた。衣装に解れやシワがないのも確認済み。小道具だってばっちりだ。
それでも僕の不安な気持ちを物語るように心臓はバクバクと大音量で鳴っている。
「あぁ〜緊張する…!」
「大丈夫か?顔色真っ青だけど」
「だって開口一番は僕なんだよ!セリフいきなり噛んだり、とちったりしたらどうしようと思うと…」
「それなら大丈夫だろ、お前なら。リハ以外にも他の奴より練習してたんだからよ」
「うぅ〜…でも…心配なんだよぅ…」
我ながらどんどん情けない声になっていく。始まる前なのにもう泣きそうだ。
「…よし、ちょっと手ぇ貸せシンタ。片手でいいから」
「ぇ…う、うん」
タイチに言われるまま、右手を出す。すると、握手する形で掴まれた。そして
「お・りゃ・あぁ〜!」
「うわわぁあっ‼︎」
力いっぱい縦に振られた。2、3回だけの往復で止まったが体全体が揺れてくらくらする。
「って、何すんだよタイチ!肩もげるかと思ったじゃん!」
掴まれていた手を払うと、タイチがニカっと歯を見せて笑った。
「はっはは!ようやくいつものシンタになった!」
「…もしかして緊張ほぐそうとしてやったの?」
「おぅ!体ガチガチだったからな。いい感じに柔らかくなったろ」
よかったな!と明るく言うタイチの顔を見て、少し呆れたため息が出た。でも、緊張して強張っていた体は少しだけリラックスして動きやすくなった。
「やり方はめちゃくちゃだけど…でもリラックスできた、サンキュ」
「どーいたしまして」
開演を知らせるうるさいブザーが体育館内に響く。その少し後に、放送部のアナウンスが続いた。
『これより、3年3組の演劇が始まります。演目は--』
お題「カーテン」
10/11/2023, 1:38:22 PM