進まない、進まない。
時計の針が何回も回っても。
まだ彼は帰ってこない。
旦那が出掛けて大分経ったと思うんだ。
何だかやる気も出ないし机に突っ伏して時計や暦だけを見つめてる。
そんな私を見兼ねて後ろから遠慮がちに声が掛かる。
「団長…新作はまだやらないんですか?」
「旦那がまだ帰ってない」
あの演目は、新しく考えた演目は最初に旦那に見て欲しい。
誰よりも真っ先に。
そして憎らしい笑顔で褒めて欲しいんだ。
お前の演技はやはり最高だと。
今回の戦地は厳しいと彼は言った。
いつも余裕そうに笑う彼のその瞳は本当に厳しいのだとそう語っているようだった。
「旦那に会いたい…」
今回で遠征に出向くのは終わりと言っていた。
すべて終わるのだと。
出来るだけ早く帰って来ると。
そもそもの始まりは自分の失態だった。
他国の舞いを顔見知りだけの会合だと油断して舞ってしまったから。
それが敵対する国の舞いである事に。
ただのお手本のつもりでひと舞いしただけのそれが火種となって。
旦那は私を庇って無理難題な積荷を運びに戦地へ行った。
「お前はまた考えもなしに行動するな!責任も取れないくせに!!」
と私を罵倒して決別して会いに来てくれなかったのに、それでも赦してそばに居てくれるその旦那が。
今はそばに居ない。
早く帰って来るって言ったじゃないか。
新作楽しみにしてるって言ったじゃないか。
そうではない。
そうではないのだ。
旦那は無事でいるだろうか。
早くあなたの為に舞いたいのに。
時計の針はまだ一向に進んではくれない。
逢いたい。
憎らしいその顔に。
🍁(時計の針)
2/7/2026, 10:03:36 AM