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3「君が見た夢」

君が見た夢の話を、君は覚えていない。

朝、君は「よく寝た」とだけ言った。夢の内容は空白だ。だが、君の目には微かな湿りが残り、指先はまだ何かを掴もうとしていた。夢は、忘れられたふりをして、身体にだけ居座る。

その日、君は見知らぬ路地で立ち止まった。壁の落書きが、なぜか懐かしい。靴底に小石が挟まり、痛みが一拍遅れて来る。その遅れを、君は「夢の余韻」と呼んだ。理屈はない。確信だけがある。

夜、君は再び眠る。夢は二度目の訪問者として、礼儀正しく同じ席に座る。今度は名前を名乗る――君自身の声で。そこでは、失ったものは失われていない。選ばなかった道は、まだ濡れていて歩ける。君は夢の中でだけ、間違いを訂正する。

目覚めると、訂正は消える。だが修正痕は残る。君は少しだけ優しくなり、少しだけ遅く歩く。夢は現実を変えない。現実の角度を、ほんの数度、傾けるだけだ。

だから君が見た夢は、語られないまま正確に働く。忘却という名の完成形で。

12/16/2025, 1:52:12 PM