付き合って一年の記念にプレゼントしようと、マグカップを一つ買った。
どうやら君も同じことを考えていたようで、テーブルの上にラッピングされたマグカップが二つ並んだ。
僕らは笑って、それを交換した。
【自己都合のマグカップ】
僕が買った飲み口の厚いマグカップでココアを飲む君が好きだった。両手でカップを包み込んで、その縁に小さな口をつける姿。その隣で、僕は君からもらったマグカップを片手で持ち、少し物足りない量のコーヒーを飲み干す。
幸福な時間だった。愛おしい時間だった。
今、この家にマグカップは一つしかない。
私は君の水分になりたいと、いつか君は言っていた。変なことを言うなあとあの時は聞き流したが、記念日にわざわざマグカップを買うあたり、僕も心のどこかで同じようなことを思っていたのかもしれない。
生きている限り喉は乾く。まして、思いっきり泣いた直後ならなおさら。
そのときに思い出してもらえるように、なんて無意識に考えていたのかもしれない。
あのときから、僕らは終わりに向かって歩いていたのかもしれない。
だってこの先も二人で生きていくつもりだったら、記念日のあの時、テーブルの上にマグカップは四つ並ぶべきだったのだ。
僕が君に買ったマグカップは小柄な君が扱いやすいようにもっと軽く、飲み口の薄いものであるべきだった。君が僕に買ったマグカップは僕が飲む量に合わせてもっと容量の多いものであるべきだった。
お互いに、相手に呪いを残すことしか――自分のことしか――考えていなかったのだ、結局。
僕ら二人、どっちにとっても使いやすいマグカップを二つ買って「これからもよろしくね」と言うだけで、回避できた程度の別れだったのではないか。
君と過ごした日々の残滓が両目から溢れて、だから僕は、今日も君からの呪いに手を付けるのだろう。
6/16/2025, 6:47:37 AM