代わり映えのしない毎日は
まるで、ただひたすらにレベルアップのためだけに弱いモンスターを倒しまくる、あの地味な作業に似ていた。
だから、つまらなくて、だるくて、刺激がほしくなる。
こんな時間を費やす自分が馬鹿みたいに思えて、私は数学の問題集を閉じた。
階下に降りて、スニーカーを出す。
「こんな時間にどこ行くの?」
フェイスパック姿の母親が耳敏く気づいて、玄関まで出てきた。
そんな姿でこそ、玄関まで来ないでほしい。
「そこのコンビニで、模試の解答用紙コピーしてくる」
喉元まで出かかった言葉は、優良少女が使いそうなものにすり変わって投げられた。
「あら、だったら、拓磨についていってもらったら?」
母親は、上階を振り返って、いまにも弟に声をかけそうだ。
拓磨だって、部屋で思い思いに過ごしたいだろうに。
ほらね、受験勉強が絡むと態度が変わるんだよね。
「いいよ。部活で疲れてるだろうし。なんかレギュラー候補なんでしょ?大事な時期なんだし、ゆっくりさせてあげなよ」
私はすげなく答えて、スニーカーの靴紐を結ぶとトートバックを持って立ち上がった。
「そう?でも…」
母親は、また上階をちらりと見てから、私に視線を移した。まだ決めかねているようだ。
「コピーしたら戻って来るから。何か買うものがあったら、連絡ちょうだい。じゃあね」
長居は無用だ。
私は、母親が何か言い出す前に玄関を出た。
夜の空気は独特な感じがする。
毎日往復している通学路でさえ、朝の爽快さやまどろみが混在したものと、まるで空気感が違う。
薄闇が生き物だとしたら、知らずにその呼気を吸い込んで、自分が内側から侵食されていくような妄想すら描いてしまう。
コンビニは周囲の薄闇を退けて発光する、古びた宝箱みたいだった。
塾帰りの中学生たちが購入したホットスナックを噛りながら、小テストのできばえを話題に自動ドア付近に屯していた。
ああいう自由は、私の頃は無かったな。
私はコンビニの自動ドアを潜ると、雑誌コーナーを一瞥し、複合機に向かった。
#日常
6/22/2024, 2:10:07 PM