シオン

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「⋯⋯未来は何があるんだと思う?」
「ないよ」
 僕の素朴な疑問というか、願わくば『今』が続けばいいなんて思った僕の言葉に対して、ひどく簡潔な、それでいて意味が詰まってそうな言葉が返ってきた。
「⋯⋯ない?」
「ない。ボクに未来なんかないよ」
「⋯⋯⋯⋯どういう意味で」
「ボクにとって『未来』という言葉は、何らかの変化とか進化とかその他もろもろ、とにかく何か変化がなくてはいけないと思ってるの。だからないよ」
「⋯⋯⋯⋯そっか」
 じゃあ彼女のこの先が『変化』したら『未来』が生まれるのか。
「結婚する?」
 言ってから何を言ったか理解した。口に出てる最中に自分が何を言ってるか分からないのは脳死状態で話してる現れだ。
 結婚はできない。そもそもそういう契りを結べるような機関がない上に、そもそも付き合ってない。もちろん僕は彼女のことが好きだけど、彼女は僕のことを好きでは無いだろう。訂正しなくてはと口を開こうとしたら、先に彼女が言った。
「⋯⋯⋯⋯しよっか」
 いいんだ。
 いいんならいいんだが。
「⋯⋯⋯⋯じゃあ、一緒に住む?」
 返事はなかった。代わりに肩が重くなった。
 そっと横を見れば、僕に体重をかけるようにして寝ていた。
 じゃあ、さっきまでのも忘れられてしまっているかもな、なんて少しだけ悲しくなった。
 

6/17/2024, 3:56:30 PM