駅から住宅地へと続く並木道の途中に、私の店はあって。この道に延々と植わっているのはユリノキなんて可愛らしい名前の、だけど昔からある並木道だけあって、そこそこ育っている立派な木で、夏にはその大きな葉っぱで直射日光を遮ってくれたりもするのだけれど。
「……わあ。今日も、大量」
店先はまさに『落ち葉の道』って感じで、アスファルトのはずの地面が見えないほどの、大きな葉の、たくさんの落ち葉が……。
あーもう、店の体面的にも、この状態はマズい。
でもバイトさんたちの出勤時間まで、まだだいぶ時間あるんだよねぇ。
出勤したばかりの私は、コックコートに着替えずに私服のまま、ホウキとチリトリのセットを手に、店の外に出る。ユリノキ、別名ハンテンノキ──なんでもこの大きな葉が、半纏の形に似ているからだそうで。
「いいデザインの葉っぱなんだけどねぇ……」
ふう、とため息をつきつつ、チリトリをガコンガコン言わせながら落ち葉を回収して、ゴミ袋に入れて……うーん。正直、メンドクサイ!
あーあ。こんなことなら、もう一つの物件のほうがよかったかも? なーんて……候補を最後の二つに絞って、考えに考えた末、いまのこの物件を借りて開店したわけなんだけど。もしあっちだったら、並木道じゃないから、こんな苦労はしなくて済んだはず、で……。
「あー……でも、それじゃダメだ」
「なにがダメなんですか?」
独り言に合いの手を入れられて顔を上げると、スバルくんが立っていた。
「おはよう。あれ、もうそんな時間かぁ」
「おはようございます。ユウナさんそれ、代わりますよ。あと、なにがダメなのか気になるんですけど」
「え? あーうん、まぁ独り言だからさ? こっちはもう終わりそうだから大丈夫、仕込みのほう頼むねー」
スバルくんを無理矢理店の中に押し込み、私は掃き掃除を再開する。
顔がニヤけそうになりながら、思い出すのは──面接のときの、スバルくんのこと。
『志望の動機、ですか? レストランで働いてみたかったのと、あとは……お店の場所が、住んでるアパートから近かったので』
そう、もう一つの物件だとスバルくんのアパートからは、電車の乗り換えもあって通いづらくて、だから──スバルくんとは、会えなかったかもしれないのだ。
「うん。この物件に決めて、よかった!」
掃き終えたアスファルトにひらり、と落ちてきたユリノキの葉を、指でつまみ上げながら。
私はそんな独り言を、盛大につぶやいたのだった。
11/26/2025, 9:44:36 AM