むかしむかし、あるところに
きつねとうさぎが、おやすみなさいをいいあうような
さみしい、しずかなもりのなかに
ふしぎな子じかがおりました。
子じかにはおやはいませんでした。
木々さえもねむる、ちいさなもりに
子じかはふっと、わいたのでした。
子じかのうまれはだれもしらないのでした。
ものしりのふくろうも、うわさずきのうぐいすも
もりの王者のおおかみたちも、もりぜんたいが家のハイイログマも
だいかぞくのハツカネズミの一家も、ほんにんの子じかでさえも。
子じかのうまれはだれも、しらないのでした。
子じかにはふしぎな力がありました。
日がしずみはじめて、夕日にもりが、ほのかなあかねいろにそまりはじめると、
子じかはなんだか、むしょうに走りたくなるのでした。
子じかは毎日毎日、日がしずみはじめると、もりのすみずみまで、何かさけびながら、走り回りました。
そして、きがすむまで走り回ると、そのときにはもう日はすっかりしずんで、深いむらさきいろの空に、散りばめられた星がきらめいているのでした。
子じかは知りませんでした。
走り回るとき、子じかの口は「bye-bye」とたえず、今日とのおわかれをさけんでいることを。
そうして、その言葉をはなつ子じかが走り去った場所から、夜がはじまっていること。
子じかのbye-byeがきこえたもりのどうぶつの子たちは、みんな安心して、ここちよいねむりにつくこと。
子じかのこえは、よるをよぶこと。
子じかの走り回るくせは、おわった一日への、わかれのあいさつなのです。
きつねとうさぎがおやすみなさいをいいあうような、ちいさな、さみしい、しずかなもりで、今日も子じかは「bye-bye」と、こえをあげながら、走っています。
ほら、こうして今、いい子でお話を聞いているあなたも、しずかに、耳をすましてごらんなさい。
目をつむって、枕にあたまをつけて。
ようくよく、耳をすましてごらんなさい。
きっとじきに、子じかのこえがきこえてきますよ。
そうしたら、もう今日とはお別れの時間。
おやすみをいう、時間です。
かしこいぼうやも、やさしいおじょうちゃんも、みんなで目をとじて。
今日にバイバイしましょうね。
3/23/2025, 6:06:45 AM