ゆかぽんたす

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ぴこん。

もともと眠りが浅いほうで、かすかな物音にも気がつく方だ。ベッドサイドに置いたスマホが鳴っているのにも早々に気付いた。どうやら目覚ましではない。夜勤明けだったから今日は鳴らないはず。じゃあ電話か、と思ったけど短い音のみでまた静かになった。どうせ何かのメルマガだろう。もう一度眠りの中に戻ろうと反対向きに寝返りをうった。

ぴこん。

また短い電子音が鳴る。けれど気にも留めない。外はとっくに太陽が昇っているけれど、僕の夜はまだ明けてない。後で確認するから放置を決めた、が。

ぴこん。
ぴこん。

ぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこんぴこ

「っだーっ、何だよもうっ」
いい加減我慢ならなくて飛び起きてスマホを掴む。こんな迷惑な配信してくるのはどこの企業だ。ブロックしてやろうかと思いながら画面を見る。未読件数19件。その全てが、いつもの、見慣れたウサギのアイコンからの通知だった。

おはよー。
今日いい天気だね、どっか行く?
てか、起きた?
起きてないね、こりゃ
ねー、起きてよ
起きて
起きて
起きて起きて起きて
起きろー

Ki
RO
拗ねるぞ
てかどんだけ寝てんの
ケチ
ふんだ。いーもん
せっかく一緒にご飯食べいこうと思ったのに
じゃあ1人で行きますよっと

何だこれは。思わず溜息が出た。電話をかけるとすごい速さで相手が出る。
『やっと起きた』
「勘弁してくれよ……」
『もう、遅いよ。こないだ行ってた新しくできたカフェ、1人で行っちゃうから』
「拗ねるなよ。あと20分くれ。準備するから」
『……絶対だよ。20分、今からちゃんと計るからね』
電話は切れ、ようやく室内は静かになった。カーテンの隙間から光が射し込んできている。今のやり取りで頭はすっかり覚醒した。
「さて、と」
スマホを置いてベッドから離れる。もう一度、ぴこんと音がした。今度は何だ。

よーい、スタート

本当に計るのかよ。
あと20分か。1分でも遅れたらまた文句言われそうだ。けれど、楽しみにしているアイツの顔が浮かぶ。このふざけたアイコンのウサギみたいに、目をキラキラさせて僕の前に現れるんだろうな。


9/16/2023, 8:10:40 AM