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“降り止まない雨”


スマートフォンから軽快な通知音が聞こえてきて、俺は料理をしていた手を止めた。
きっと彼女からのそっけない会社を出たという連絡だろうと思いメッセージアプリを開く。
昨日買ったばかりのかわいいネコのスタンプでも送ってあげようかななんてメッセージを確認すると、そこには『傘を忘れたから、迎えにきて欲しい』との文字が。
はっと外を見るといつから降っていたのか、結構な雨が降っていた。
ジュウジュウというフライパンの音や換気扇の音で全く気が付かなかった。
慌てて火を止めている間にまた彼女からのメッセージが届く。
『忙しかったか?無理なら大丈夫。コンビニで探す』
『いや、大丈夫。駅まででいいよね?すぐ行くよ』

慌ててメッセージを返しながらバタバタと準備をする。
駅の近くにあるコンビニは近くとはいえ、一度外に出なきゃいけないし、せっかくなんだから一緒に歩きたい。
濡れても気にならない様な服にさっと着替えてまたメッセージの確認をする。ありがとうの一言と共に送られてきたスタンプは俺が昨日買ったあのスタンプの別シリーズのネコだった。
やっぱり彼女も買っていたんだなんて少しだけほっこりしながら家を飛び出した。


「……で、なんで私の分の傘がないのよ!」
「ごめん……」

慌てていた俺は彼女分にもう一本持って行かなきゃいけないことをすっかりと忘れていた。
呆れた、とため息をつく彼女はその言葉の割に少し機嫌が良さそうだった。

「しかたないから一緒の傘で帰ろう」
「うん。ほんとごめん」
「いいよ。来てって無理言ったのは私だし」

一人でより二人で濡れた方がマシじゃない。
肩の触れる距離でにこにこと笑う彼女が眩しくみえる。
家にいる時とそんなに距離感が違うわけじゃないのに、不思議とどんどん鼓動が早くなる。
なぜだろう、すごくドキドキしてきて隣にいる彼女にまで聴こえてしまいそうだ。

どうかこのまま家につくまで雨音でこのバカみたいな心音を隠していて欲しい。



5/25/2024, 2:40:23 PM