大狗 福徠

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幾数年前、確かに私の人生は終わりました。
ですが死んだわけではないのです。
ただ生きる意味を失ったのです。
度重なる復讐と報復を終え、復讐鬼は死にました。
そんな死んだ男を拾ったのは貴方です。
貴方は私より年老いて、歩くのがやっとでした。
見えない目で、聞こえない耳でどうやって私に気づいたのか、
首を括り死のうというその時に私に声をかけてきました。
また人を手に掛ける気力などは私にはなく、
言われるがままに連れられて樹海を出ました。
人として生きるのに疲れたのなら、
ここで自由に生きなさいと貴方は私に告げました。
それが嫌ならまた死にに戻っていいとも告げました。
ただし自分に気づかれぬように、というルールを添えて。
貴方はいつも抜け出す私に気づきました。
はじめから死なせる気がないのであろう。
そう気づいたのは貴方が死んだ後でした。
生まれてこの方殺すことしか知らぬ私に、
貴方は学を、料理を、言葉を、楽しさを教えてくださいました。
貴方は私を鬼から人へ育ててくださった。
何もかも知らぬことばかりでした。
貴方が死んだあと、今でさえも学ぶことばかりです。
終わりに着いた私を、貴方はまた始めてくださった。
貴方と生きたこの場所で、私は貴方のように生きております。
先日、私のように死のうとした男を見つけました。
それがどうにも自分のようにしか見えなかった。
貴方もそうだったのでしょうか。
気づけば家に招き入れて、貴方と同じ言葉を放っていた。
貴方が私にしてくれたように、
私も彼に初めてのことを教えるのでしょう。
もし、その後彼がまた私のように、貴方のようになったなら。
ここは終わり、また初まる場所になるのでしょう。

3/13/2025, 5:39:52 AM