かたいなか

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「『いい夫婦の日』に会わせて、11月22日に『夫婦』のお題、出したんだろうな」
仲睦まじい夫婦、リアル世界で見たことねぇなぁ。
某所在住物書きはため息ひとつ吐きながら、では今日のお題は「いい兄さんの日」だろうかと、外れる確率の方が高い予想をしながら執筆作業を急いだ。
次のお題配信まで、残り4時間と少しである。

「結局、夫婦円満の秘訣って、何なんだろうな?」
いっそ夫婦にならねぇこと?もしくは妥協と諦め?
ガリガリガリ。物書きは頭をかき、首を傾けて……

――――――

11月23日は、勤労「感謝」の日。我々は何を、どのように「感謝」されているのでしょう。
それはさておき、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
なんと、その内母狐と父狐は、それぞれ茶っ葉屋さんの女店主と某病院の漢方医。戸籍もあって労働もして、きちんと納税までしておるのでした。
今日はコンコン父狐の仕事風景を、ちょっとだけ、覗いてみましょう。

祝日対応な某病院、朝から患者さんがいっぱいです。
『受付番号55番でお待ちの方、55番でお待ちの方。診察室5番へどうぞ』
患者さんのプライバシーを守るため、名前ではなく番号でお呼び出し。
父狐のお部屋はコンコン5番。最初の人間は55番、中年の男のひと。どこかの職場の係長さん。

「最近肩こりが酷くて」
中年係長さんは言いました。
「夢見も悪いんです。体も冷える」
コンコン父狐、話を聞いて頷きました。
父狐にはよくよく、見えていました。この係長さんはゴマスリばっかりで仕事を部下に丸投げする、悪い係長さんでした。
部下からの恨みという恨みが、肩に載って載って、過積載になっておるのです。因果応報なのです。

なんて医療と科学の発達した現代で言えやしない。

「ちょっと診てみましょう」
それっぽく触診しながら、コンコン父狐言いました。
「血の巡りに良いお薬も、ありますので」
ぶっちゃけ血の巡りよりお祓いです。あと心を改めて、弱い部下いじめをやめることです。
そう。そんなこと、現代で言えやしないのです。

診察して説明して処方して。55番の係長さんは……
「簡単に、すぐ体調が良くなる漢方は無いのか」
帰っていって、くれませんでした。

「少し、副作用が気になる薬でも宜しければ、」
「漢方だろう。なんで副作用があるんだ」
「漢方も、薬ですので。飲み合わせもあれば、体に合う合わないもあります。完全に副作用無しとなれば、生活指導という手も」
「面倒だ。いらない」

あーだこーだ、がやがや、コンコン。
係長さんとコンコン父狐の問答は数分続き、
結局、診察料だけ頂いてさようなら、となりました。

「かかさん、私の愛しい愛しいかかさん」
コンコン父狐、どっと疲れが出て、今頃茶っ葉屋さんで子狐を抱き接客中だろう母狐にお電話です。
あるいは自宅の稲荷神社で、おばあちゃん狐やおじいちゃん狐と、にいなめさい、新嘗祭の神事中かしら。
「人間が、にんげんが面倒くさいよ」
額に手を当てて、ため息吐いて、コンコン父狐、長年夫婦で連れ添っている母狐に言いました。
キャウキャウ子狐の甘える声が聞こえる、私物のスマホの向こう側。コンコン母狐、答えました。
『今お得意様の対応中ですので、折り返しますね』

「かかさん……」
ピロン。つー、つー、つー。
コンコン父狐、しょんぼりうなだれて、次の患者さんをお呼びします。
『受付番号58番でお待ちの方、58番でお待ちの方。診察室5番へどうぞ』
こやーん、こやぁぁーん。
次の患者さんも、診察して説明して、処方して。
日がとっぷり暮れるまで、母狐から折り返しのお電話が来ることは、結局ありませんでしたとさ。
おしまい、おしまい。

11/23/2023, 5:44:27 AM