55日常
青春時代には、本当に何もなかった。
小学校の友達と同じ中学に行き、中学校の友達と同じ高校に行った。偏差値54の普通科高校。いいやつもわるいやつもいなくて、勉強は簡単でも難しくもなくて。
部活はやってなくて、放課後は友達とゲームばかりして、文化祭ではたこ焼きを焼いて。
週末だけ近所のレストランでバイトして、そこで手際のよさを褒められたので調理学校に行って、隣県の観光ホテルに就職して。
ああ、人生って本当にこんなもんでいいのかなぁ、あんまりにも、何もなさすぎるよなぁ。ちょっとふがいない心地で思ってもいたけど。
「分かるわかる。私もそんな感じ。商業高校で簿記とかやって、なんかそのままここのホテルに就職したよ」
職場で知り合った女の子にそう言われ、すごく居心地がいい相手だったので、そのまま結婚した。彼女はいい奥さんだ。日々には相変わらず何もないけど、来年には子供が生まれる。何もない人生に「自分の子供」という存在が登場することになったから、正直戸惑う。でも、こういうのは素直に幸せだと思う。これからの五十年くらいの人生に「なにもない」ことを、今はむしろ、積極的に願っている。
6/23/2023, 9:36:12 AM