未完成タイムラバーズ

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それは1900年代初頭のこと。世界は白黒で彩られていた。空は薄いグレー、海は濃いグレー、大地はその中間の色で満ちていた。人々はそれが普通だと思って生きていた。何も疑問を持たずに、毎日の生活を続けていたのだ。

ある日、異変が起こった。最初にそれを感じ取ったのは、田舎の小さな村の老木だった。何世代にもわたり、同じ色で立ち続けていたその木の葉が、ある朝突然、奇妙な色に変わり始めたのだ。葉の一部が、何とも言えない青みがかった色を帯びていた。村人たちは驚き、恐怖におののいた。何が起こっているのか理解できなかったのだ。

その異変は瞬く間に広がり、次第に他の場所にも影響を及ぼした。都市でも、建物の壁が奇妙な色に変わり始め、空はグレーから何とも不気味な青と黄色が入り混じった色へと変化していった。人々は恐慌状態に陥り、街はパニックに包まれた。科学者たちも、この現象の原因を解明しようと必死に研究を進めたが、答えは見つからなかった。

そのうち、人々は気づき始めた。この新しい色の世界は、単に色が増えたというだけではなく、彼らの精神にも影響を与えていた。色とりどりの景色は、初めて見るものだったにもかかわらず、なぜか不快で、落ち着かない感覚を引き起こしたのだ。青空の下でさえ、心は落ち着かず、緑の草原を見ても、どこか不気味さを感じる。人々の心は混乱し、次第に精神を病む者が増えていった。

この異変の原因は、誰も知らない。神の悪戯か、地球そのものが何らかの変化を迎えたのか。あるいは、見えない力が世界を支配しようとしているのか。しかし、はっきりしているのは、この世界が元には戻らないということだった。

物語の中心にいたのは、一人の若い画家だった。彼は白黒の世界で生まれ育ち、絵を描くことに喜びを見出していた。しかし、この新しい色の世界において、彼の描く絵は不気味なほど鮮やかになり、見る者に恐怖を与えるものとなってしまった。彼自身も、その色に蝕まれていくような感覚に苦しむようになった。絵を描くたびに、心は乱れ、次第に筆を取ることができなくなっていった。

彼はある日、決意した。再び白黒の世界を取り戻すために、この色の狂気を止める方法を見つけなければならないと。しかし、どれだけ調べても、方法は見つからなかった。最終的に彼は、画家としての自分の力を捨て、この色の世界に順応するしかないと悟った。彼はすべての色を受け入れ、その色彩に溺れることを選んだ。彼の心は、再び静かになることはなかったが、それでも絵を描続けた。彼の絵は、いつしか世界中に広まり、その不気味さと美しさが同時に称賛されるようになった。

そして、白黒の時代を知る者は次第に姿を消し、色の世界が新たな常識となっていった。人々は、かつての白黒の世界を思い出すことなく、この新しい現実を受け入れて生きていくようになったのだった。

8/20/2024, 1:04:56 AM