【星空】
「赤城竜也様、おめでとうございます。貴方は『星空チケット』へ当選しました」
玄関先で黒尽くめの男がそう告げた。
数十年以上前から応募し続けていた「星空チケット」の抽選。
僕が当選したなんて夢のようだ。
「星空チケット」の倍率は約4億分の1。
1抽選につき5人当選でこの倍率なんてアホ過ぎる。
3ヶ月に1回応募できるとはいえ、一生かかっても当たる可能性は限りなく低い。
それなのに…ホントに当たるなんて。
このチケットは国が発行している物で、期間内であれば好きなだけ豪遊できる代物。
高級料理を食べたり、高級ホテルに泊まったり、高級風俗とかでイチャイチャしたりなんかもできる。
最後は「星空旅行」ってのに行くことができるらしい。
当然だが、譲渡やコピーなどはできないように当選者専用チケットが発行されているので他人は使えない。
当選したら目の前の男のような担当者が直接当選者に伝え、スマホなどを預かってそのまますぐに専用車で移動、という形になるので周りに当選したことはバレないとのこと。
じゃあSNSは使えないのかというとそういう訳でもないらしく、SNS投稿などができないように制限されている専用のスマホを渡されるので普段通り閲覧することは可能だった。
ルールとして「期間内は勿論、終了後も『星空チケット』の当選について決して口外しないこと」を約束に、僕の豪遊旅は始まった。
僕の担当になったこの黒尽くめの男は「ツキミヤ」と名乗り、僕の我儘をなんでも叶えてくれた。
初めての海外旅行にキャバクラ、金持ちだけが集まる高級カジノ、高級料理の食べ放題…あっという間に豪遊可能期間である2週間が経っていた。
「…赤城様、お時間になりましたのでそろそろ『星空旅行』へ向かいましょう」
「わかりました」
専用車でツキミヤに連れて行かれた先は大きな機械が並ぶ不思議な空間。
部屋の真ん中には黄色の大きな星マークが描かれており、それをスポットライトが照らしていた。
「では赤城様、その星マークの位置に立って少々お待ち下さい」
僕が星マークの上に立つとツキミヤは何かの機械を操作し始めた。
やがて、ギュイーン、ギュイーン。ガタン、ガタン、ガタン。というような音と共に機械が段々と激しく動き始めるとツキミヤは僕の数メートル前でお辞儀をした。
「…では、いってらっしゃいませ。良き旅を」
ツキミヤの声を合図に、僕の立っていた床が突然無くなった。
声を上げる暇もなく、僕の身体はふわっと浮き、そのまま落ちて、落ちて、落ちて、落ちて、落ち続けた。
永遠にも感じる時間落ち続けて真っ暗闇に一筋の光が見えた。
僕は一瞬安堵した。
が、それはすぐに別のモノに塗り替えられた。
錆びた鉄のような匂いとナニカが腐ったような匂いが入り混じり、最悪の悪臭となって僕の鼻を突き抜けた。
そしてようやく下が見えた時、僕は「星空チケット」の真相に辿り着いてしまった。
あぁ…「星空」って、そういうことか。
7/5/2024, 7:34:33 PM