視線を感じ、顔を上げると、カーテンの合わせ目からこちらを覗く瞳があった。
ベッドに横たわって、私を見ていた。服部洋平、さっき頭が痛いので休ませてほしいと青い顔で保健室を訪れていた子だった。
「どうしたの。目が覚めた?」
ベッドに歩み寄り、白いカーテンを開ける。服部くんは、仰向けの額に手の甲を当てる格好で、眩しそうに目を細め、
「はい。今何時ですか」
と尋ねた。
「3時過ぎね。もうすぐ6時限目が終わるわ。具合はどう」
「頭の奥が疼く感じですね。寝不足が祟りました」
「勉強?」
「まさか。株のトレーディングを、少し」
私は驚いた。冗談かと思ったけど、それきり彼が黙るので、追及できなかった。
首だけこちらに向けて、じっと私を見ているので「なあに? 授業に戻る?」と訊いてみた。
「いいえ。ーー先生、中居先生、でしたか」
「うん」
「綺麗な声ですね。頭痛がするのに、全然気に障らない」
真顔でそんなことを言うからまた驚く。ーーまったく、最近の高校生は。
大人びちゃって。そう思いながら私は言った。
「褒めても何も出ないわよ、保健室の先生じゃ、内申にも関わらないし」
「そんなの興味ないです。少し、このままここにいていいですか」
手を額から離して、私に微笑む。
私はそこで、彼がとてもきれいな貌をしていることに気が付いた。
ことり、と心臓が鳴った。かすかに。
「……いいわよ。6時限目が終わるまでなら。ゆっくりしていきなさい」
「ありがとうございます。先生、悪いんですけど、カーテンをまた閉じてくれませんか」
「ん? ああ、まぶしかった?ごめん」
私は白の布に手を伸ばす。それを、いえ、と止めて、
「ここに座って、話、してください。……カーテンの中に、いて」
服部くんは目で私をそっと促した。
いま思えば初めからだ。最初の出会いから、私は服部くんの言いなり。
彼に恋したときから、ずっと。
#カーテン
「束の間の休息2」
10/11/2024, 11:17:04 AM