羊飼いの夢の跡

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「あーあ、今年も初日の出は拝めそうにないな」
 厳つい剣を肩に乗せ、嘆くようにケインはため息をつく。そんな彼を不思議そうな顔でウィンターは見返した。
「はつひので?なんだそれ」
「あれでしょ、ニューイヤーのお祝いみたいなやつ!」
 頰についた返り血を拭き取りながら短刀を納めつつ、リーナが言う。
「ちげーよ、いや、違くないんだけどさあ、お前たちが想像してるようなパーティーなかんじのじゃなくって」
 ケインがうんうんと唸りながら捻り出した話をまとめると、新年を祝いながら年始に日の出を見る文化があるそうだ。わびさびと言うやつだろう。
「へえ、じゃあ見ればいいじゃねえか」
 ウィンターは何気なくそう言って、そしてあたりを見回してあっと言った。それもそのはずだ。彼らは魔王軍を追い詰めるために日夜戦い、今は昼も夜もない火山帯の戦場真っ只中なのだから。
 じっと自分を見る痛いくらいの視線に苦笑いを浮かべ、ウィンターは肩をすくめる。
「まあまあ、そんな落ち込むなって!」
「そうそう、今から頑張れば、日の出くらい拝めるかもよ!」
 二人掛かりでやんややんや言っていれば、二手に分かれていたパーティーメンバーが戻ってきたようだ。一気に人数が増えて騒がしく明るくなった戦場で、ケインはよし!と大きな声をあげた。
「日の出までに終わらせてやらあ!」
「おー!!」
 話の流れを知らないものも知っているものも、とりあえずノリで士気を上げる。そうして眼前に迫った敵陣へと向かっていくのだった。

1/3/2025, 5:42:56 PM