燈火

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【鳥かご】


予習復習を欠かさない。テストは一番が当たり前。
私の明るい未来のため、母は口酸っぱくして言う。
そんな普通のこともできない人がクラスのほとんど。
ゲームやお喋りに時間を費やすなんて信じられない。

決して遅れを取るはずはないけど、油断は禁物。
早朝に登校して自習し、放課後は塾で夕方まで勉強する。
母の言いつけを守っていれば、先生も褒めてくれる。
どうでもいい人の陰口なんかに興味はないの。

席替えで後ろの席になり、早朝に他の人がいると知った。
彼は私より先にいて、いつも机に伏せて眠っている。
たまにいない日には必ずと言っていいほど遅刻する。
真面目なのか、不真面目なのか。よくわからない人だ。

夏休みが明けてすぐに、先生に呼び止められた。
赤点ばかりの彼に勉強を教えてほしい、とのこと。
他人のために時間を浪費したくはないけど、承諾する。
どんな人なのか気になっていて、話してみたいと思った。

「勉強ばっかでつまんなくない?」彼が問う。
何を言っているのだろう。面白さは問題ではない。
「そんなの考えたことないよ」必要だからやるだけだ。
彼も留年を心配される前にちゃんとやればいいのに。

「なんで勉強しないの?」今度は私が疑問をぶつけた。
彼は言いにくそうに目を逸らす。「時間がないんだよ」
いわく、彼にとってはバイトのほうが大切らしい。
「楽しいの?」「少しはね。興味あるなら来る?」

彼の手を取ったその日、初めて塾をサボった。
悪いことをしたのに、期待に胸は高鳴っている。
もしかしたら私の普通は間違っていたのかもしれない。
その無駄な時間はとても眩しくて、羨ましかった。

7/25/2023, 11:29:05 PM