『どこまでも続く青い空』2023.10.23
札幌。その二文字が見えた瞬間、僕たちは歓喜の声を上げた。
「あと少しですよぉ。お二人とも、がんばりましょう」
カメラマンがそうインカムで励ましてくれる。前を走る社長も親指を立てて合図をした。
しばらく走行していて、札幌と書かれたカントリーサインを超える。
「来たぞー、札幌ー!」
拳を突き上げて僕は叫んだ。ゴールの劇場まであと少し。
このグリーンのロードバイクとの別れも近い。予備日も入れての四日間という短い間だったが、この子はもはや僕の足となっている。
最初はこの企画は嫌だった。ただのテレビの企画ならともかく、動画配信サイトに投稿するだけの企画だったので、やる気などあるはずもない。
ましてやロードバイクまでまったく乗ったことなくて、普通の自転車とは違ったそれに、最初はどうすればいいかも分からなかった。幸いなことに新入社員の彼が普段からロードバイクを使っているということで、乗り方を教えてもらってからだいぶ楽になったものだ。
お尻が痛くなったり体の節々が痛くなったり、チェーンが外れたことなど数知れず、雨に降られたこともあった。それでも、泊まったホテルは快適だったし、大浴場も気持ちよかった。疲れたあとに食べるご飯も美味しかった。
大変な旅路だったが、楽しかった。
ここにきて疲れがドッと押し寄せてくる。足がもう動きそうにない。しかし、ゴールは目と鼻の先だ。
ありったけの力を使い、ペダルを漕ぐ。ゴールは、あと一漕ぎ。
「ゴール!」
ロードバイクから落ちるように地面に寝転ぶ。
「おつかれ。ゴールおめでとう」
声をかけられるまで気付かなかったが、とっくに現地入りしている仲間たちが笑顔で出迎えて称えてくれた。
荒い呼吸を整えるように、ふぅっと大きく息を吐く。
疲れた。すぐにでもホテルに入って、ベッドで休みたい。風呂にも入りたいし、これまで我慢していたビールも飲みたい。
欲求がいくつもいくつも湧いてくる。
いろいろ言いたいことはあるが、今はただ、このどこまでも続く青い空に抱きしめられていたかった。
10/23/2023, 12:19:39 PM