(時計の針が重なって)(二次創作)
時計の針が重なって、駅前広場の大きな塔が夜の十二時を告げた。
人気の薄いベンチに並んで座るチリは、スニーカーのつま先をぶらぶら揺らしながら言う。
「終電逃すとか、人生でいっちゃんやらかした気分や」
「そっちのせいだろ。屋台にもう一軒寄りたいって言ったの」
「唐揚げが美味しそうやったんやもん」
グルーシャは呆れ顔を隠さず、空を見上げる。街の光にかき消されながらも、かろうじて星が滲んでいた。
「それにしても、駅前のベンチで夜明かしとか、めっちゃ青春っぽくない?」
「僕は寒いだけ」
「素直ちゃうなあ。ほんまは一緒におるの嫌やないくせに」
「……どうしてそう思う」
「さっきから帰れんこと気にしてへんやろ。アンタならタクシー呼んでもええのに」
グルーシャは押し黙り、ポケットから缶コーヒーを取り出した。自販機で買ったばかりのそれをチリに差し出す。
「ほら、温かいの」
「おー、気が利くやん。ありがと」
缶を両手で包み込んだチリは、にやっと笑う。
「こういうとこ、優しいんやから。やっぱ特別扱いやな」
「ちがう」
「ほんまにぃ?」
「……黙って飲んで」
グルーシャはマフラーを深く巻き直し、そっぽを向く。
広場の時計がまた小さく音を立てた。
「なあ、もし針がずっと重なったまま止まったら、帰らんでも済むんやろか」
「そんなこと考えてどうする」
「だって、ずっと二人でいられるやん」
「……僕は眠い」
それでもベンチから立ち上がる様子はなく、隣に座ったまま。
チリは缶を飲み干し、星の消えかけた空を見上げた。
「ま、しゃあないな。夜明けまで付き合ってもらうで」
「……やれやれ」
苦笑まじりの声が夜風に紛れた。
9/25/2025, 11:50:29 AM