たーくん。

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細い根のようにいくつもある世界線。
俺が居た世界線では、彼女は事故で亡くなった。
彼女が事故に遭わず、生きている世界線を探し続けているが、どの世界線でも彼女は亡くなっている。
……本当に、生きている世界線はあるのだろうか?
いや、諦めちゃ駄目だ。
自分の世界線を捨てて旅に出たんだ、ここで諦めてたまるかよ。

……見つけた。見つけたぞ!
遂に、彼女が生きている世界線を発見した。
長かった……あまりにも長過ぎた旅。
ようやく、彼女と……あっ。
俺が、彼女と一緒にいる。
当然だ。別の世界線にも、俺はいる。
楽しそうな顔で、彼女と手を繋いで歩いている。
「……」
なにを躊躇しているんだ?俺。
ああいうことをしたかったんだろう?
彼女と一緒に居たいんだろう?
だったら……やるしか、ないんだよ。
俺は二人の後をついていった。

誰もいない公園へやってきた二人。
別の世界線の俺は飲み物を買いに行くと言い、彼女から離れて自販機へと向かった。
俺は、俺についていき、自販機のボタンを押そうとしている背後から、持っていたサバイバルナイフで刺した。
何度も、何度も、何度も、動かなくなるまで、何度も。
動かなくなった俺を、近くの茂みの中に隠した。
「うっ……ぉえ……」
自分を殺すのは、なんともいえない気分になる。
自販機で水を買い、一気に飲み干す。
「はぁ……はぁ……はぁ」
呼吸を整え、なんとか落ち着く。
これで、彼女は俺の物だ。
俺は急いで、彼女の元へ向かった。
「お、お待たせ」
「遅かったね。あれ?飲み物は?」
「あっ…」
買ってくるのを忘れてしまった。
「顔色悪いけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫。俺はいつも通りの俺だよ。はは……」
「……」
彼女は、俺の顔をじーっと見ている。
ようやく見つけた生きている彼女。
これからは、俺が彼女と一緒に……。
「……あなた、誰?」
「えっ?俺は俺だよ。なに言ってるんだよ」
「ううん。違う。見た目は同じだけど、違う」
「なんだよそれ……俺は、俺だぞ」
「違う……。ねぇ、あなた誰なの?彼はどこへ行ったの?」
なんだこれは。別の世界線でも、俺は俺のはずなのに。
これじゃまるで……。
「ねぇ!あなた誰だの!?きゃっ!」
詰め寄ってきた彼女を、思わず突き飛ばしてしまった。
そうか、この世界線も……違ったんだな。
サバイバルナイフを取り出し、逃げようとしている彼女を刺した。
そうだよ。これは彼女じゃない。彼女に似た女性だったんだ。
「は……はは……」
動かなくなった彼女を見ていると、涙が止まらない。
……また探しに行こう、本当の彼女を。
俺は今居る世界線を抜け出し、再び旅に出た。

3/14/2025, 12:41:22 PM