「届かない...」
仕事を終えて帰宅し、家の玄関を開けると彼女が高いヒールのある靴を履いているところだった。
髪も巻いており、綺麗な服を着ている。新しく買ったのだろうか、今までに見たことのないブラウスだった。
「...どこか行くの?」
「うん、友達と飲みー」
俺が何か答える前に彼女はじゃ、いってきまーすと言って出ていった。静かな玄関に、外を歩く彼女のヒールの音がよく響いた。
珍しくもない出来事に気分を沈ませながら部屋に入り、ソファーに腰を下ろす。さっきまで座っていたのだろう、ソファーの右側はへこんでいた。左側に座った俺は、へこんだ部分を優しく撫でる。
ーーー本当はもう、分かっていた。薄々どころではないくらい、彼女の気持ちが俺に向いていないことには、完全に気がついていた。
気づいてしまってからはいつ振られてしまうのかと毎日怖くて、彼女の目もまともに見れなかった。
それでも、彼女への愛はちゃんと伝えられているつもりだった。
何が足りなかったのかな。
胸の中に燻る想いを、今日もアルコールで溶かしていく。
5/8/2025, 12:52:11 PM