水白

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「ぼくらの地獄は、最初から決まってた。
この世界に進む以外の選択肢は、生まれた時から…どころじゃないねぇ、母親のお腹の中にいる時からなかった」

椋は悲壮感もなく、いつものなんてことない表情でそう言った。
五条が同じことを言葉にしても、同じようになんの感情も出ないだろう。
なにせ前述の通り、自分たちにこの世界以外存在しないのだから、思うことなどなにもない。

「それでも、泣き喚いて、引きこもって、吹っ切れて、自分の意見を通すため交渉して、ここに来た。センパイもきっとわがまま言ったから、ココにいるんでしょ?
ぼくらがこんなところで出会ったのは想定されてない未来だと思うから」
「だから?」
一度、大きな瞳を伏して言葉を溜めた椋に、わかりやすく乗ってやる。
すると、朝顔が華やぐように笑顔が開いた。
「センパイと打算もなしになかよくなりたいなぁ」
「…あっそ」
「あ、でも打算なしは無理かなあ…家の人たちにも運命にも、ざまぁみろって言ってやりたいもん」
言い終わると同時に、椋は咽るように咳をする。
止まらない咳に、せっかく開いた朝顔が早々に閉じていく。

椋の中身は、朝顔のように慎ましくも清廉でもない。
でも、
「そういうのは嫌いじゃねぇよ」

咳で弾む椋の肩は、笑っているようだった。
いや、実際に笑っていた。
生意気だぞ、後輩。



【最初から決まってた】

8/7/2024, 3:13:06 PM