たつみ暁

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風が強くなると冬が来る。この国は、雪に閉ざされる期間が長い。今年も風が冬を運んでくる。
種を埋めても、よほど強い作物でもなかなか根付かないこの不毛の大地で、民を生かすには、祖父が残した騎士団を強くして他国を攻め、奪い取るしか無かった。
俺は苛烈な王に見えるだろう。史書には暴君とすら書かれても文句は言えまい。
こんな横暴な主君に連れ添ってくれる女もいないだろう。王座は血縁に譲ればいい。

そう考えていた俺の前に、希望は空から降ってきた。

「きゃああああ!!」

騎獣を飛ばして、悲鳴と共に風が運んできた女を助けた。
この世界では見たことの無い服をまとい、人間には無いような黒髪黒瞳が印象的だった。

他所の世界から来たのだろう、ということはすぐに理解した。
この世界では、ありえないと思われることが起きうる。この西の大陸では知り得ないことが、他の大陸では存在するというから。

彼女は俺を恐れなかった。
笑いながら食事を共にし、この国の窮状を知るや否や、「わたしにできることがあるかもしれません」と自信を持って言った。

彼女が持っている植物と土の関係の知識は、舌を巻くものだった。
失敗することも多いが、強い麦が芽を出した時には、その場にいる研究者誰もが喜んで抱き合った。
風は、彼女という希望を運んできてくれた。
皆に囲まれてはにかむ彼女を見つめるその時には、俺の脳裏では、彼女に似合う指輪のデザインが浮かんでいた。

それを渡したら、彼女はどんな反応をするだろう。
どんな返事を、風は運んでくるのだろうか。

2025/03/06 お題「風が運ぶもの」

3/6/2025, 10:53:37 AM