案山子のあぶく

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◎新年
#43

新たな年を迎えるにあたって、
それまでの十二支は、新たな十二支を選出する。

1年間【辰】を背負った龍一族の青年は、次の【巳】を見出す為に蛇一族を訪れた。

"十二支としてその1年を背負う者は一族の誉れである"

そんなふうに言い聞かせられて育った蛇の若者たちは期待を込めて龍を見つめた。
先頭の数匹は"特別な目"を持つ十二支候補だ。

遠くまで見通す目。
視界に映る者を分析する目。
過去を見通す目。などなど

「……」

無言のまま、龍はとある蛇の前に進み出た。
その蛇はお世辞にも立派とは言えない風体だった。
床を見つめて、近づいてきた龍に気付く素振りも無い。

「君。」
「──は、……私でしょうか」
「そう、君。」

十二支の龍が、何故みすぼらしい蛇に声を掛けるのかと困惑しながらも2人の静かな問答を若者たちは息を飲んで見守る。

長く伸びて口元に掛かったたてがみの間から覗く紅い瞳は蛇を見つめて息を吐いた。

「良い目だね。」
「……お褒めの言葉、ありがとうございます」
「その目は何を見通せるの。」
「……人間たちの営みを覗き見る程度でございます」

淡々と答えながら、その瞳は床に向けられている。

「君なら上手くやれるだろうね。」
「──え」
「君が此度の十二支だ。」

混乱する蛇たちを尻目に龍は囁いた。

「私たち十二支は人間を見守り、神々に伝えることが役目。君は真面目そうだし、それに十二支は特別な目が要る訳では無いんだよ。」

これは選出における秘密事項だからねと、龍は微笑んだ。

1/1/2025, 12:50:33 PM