無音

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【73,お題:ココロオドル】

両手で狐の形を作り、その手を重ね合わせる
『狐の窓』と呼ばれる、古くから伝わる呪いの一種だ

人には見えない者達を視るために作られたもので
人に化けた物の怪を見破れたり、この世ではない世界を覗き見れるといわれている

微弱な霊力しか持たない一般人が、遊び半分でやるならば問題はない
印の組み方もちゃんと出来ていない場合が多いし、何より霊力が強くないなら
よほどのことがない限り”あちら側”のもの達に、魅入られることはない

だが、霊力の強い人間がやるなら話は別だ

ただでさえ歴史の古い呪いだ、正しいやり方で使えば絶大な効力を発揮する


『ほウ...我の正体ヲ見破るカ、小僧』

呪文を唱えた瞬間、目の前の親友の姿は跡形もなく消え去った
その代わりにと現れたのは、金色の着物を纏い二足で立った狐だった

「ハッ、アイツの霊力は、テメェ見てえに禍々しくねえからな」

とはいえ、俺でも窓に頼らねえと見えなかった
恐らくこの狐、相当強いな

『これハ良い、人間ニ姿を見破らレるのハ久シぶりじゃ』

狐は肩を揺らし、愉快そうにクツクツと嗤った

『心踊ルのぉ小僧、貴様もそウ思わンか』

「さァ?生憎、俺は感情に疎くてね」

その場の空気がどす黒く、重くなっていく
暗闇に浮かぶ三日月は、血のように真っ赤に染まっていた

10/9/2023, 11:10:28 AM