シオン

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 ウィルとは一緒にいないことを確認すれば、先日の図書館での出来事がフラッシュバックし、彼女の心をざわめき立てた。
 図書館の一件はもう二度とあってはならないことであり、受付係はデウスから重たい罰を与えられた。それは決してたった一回の無断欠勤という目で見れば酷く重たいように見えるかもしれないが、彼の職場が奥にいけば行くほど自我も記憶も失う終身刑よりも重たい罰の為の施設だとすれば、むしろそこまで重くないかもしれない、と考えられる罰だった。
 もちろん、そうそうあることではない。もちろんそうそうあっては困ることなのだが。
 それでもアリアはなんとなく悪いことが起こりそうな予感を捨てきれずに後ろからそっと着いていくことにした。
 そうして、予感は的中してしまったのだ。
 サルサはトイレを済ませて書庫に戻るところだったが、今度は道に迷っていなかった。その足取りは確実なもので正しい戻り道を辿っていた。
 だがしかしサルサが一本の分かれ道を通り過ぎたあと、そこから飛び出してきた男がいた。男はサルサの背中目掛けてナイフを振りおろそうとする。
 アリアが小さく何かの言葉をつぶやけば、男は光の糸でぐるぐる巻きに巻かれてしまった。ナイフが彼の手から零れて地面にキズを作った。
「ちっ……」
「随分と偉そうな態度だな」
 サルサの方を向きながら舌打ちした男に対してアリアが厳しい口調で言えば、男は顔を真っ青にした。
「あ、アリアさま…………」
「あの者はデウスさまのお気に入り。それを傷つけようなど言語道断だが……どうやら貴様はデウス様から直々に叱られたいようだな」
「い、いえ……」
「うるさい」
 アリアは口答えをしようとした男の言葉を一蹴すると指をくるんと回した。途端に男はアリアの目の前から消えた。
「行き着く先は牢屋の中……なんてね」
 アリアはそう言うとポケットから手鏡を出した。鏡面に触れながら何かをつぶやけば、瞬く間に書庫を映し出す。
「うんうん。無事に着いたようでなにより。守れてよかったよ、君の背中」
 アリアは明るく呟いてその場を後にした。

2/10/2025, 12:28:53 AM