酸素不足

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『もう一つの物語』


「泣かないでよ」
「泣いてないっ」

そんな、か細く震えた声で言われても。

「誰が選ばれても、恨みっこなしでしょ」
「わかってるわよ。けど、ちょっとくらい、悔しいって思ったっていいじゃん」
「悔しいんだ?」
「当たり前でしょ。本気で好きだったんだから」

ズズズっと鼻をすすった彼女は、僕を睨みつける。

「あんたは悔しくないの?」
「僕は、結構前から諦めついてたから」
「なにそれ」
「他に好きな人できたし」
「は?じゃあ何であたし達と競ってたのよ」
「好きな人と、少しでも一緒にいたかったからだよ」
「はあ?」

僕達は、主人公の友達で。
物語の主役にはなれない脇役で。
それでも、僕達には僕達の物語があるわけで。

「君だよ。僕の好きな人は」
「…………はあ!?」
「はははっ。涙止まったね」
「あんた、私を泣き止ませる為に、そんなバカみたいなこと言ったの?」
「違うよ。本当に好きなんだ。泣き止んでくれたのは、思わぬ誤算ってところかな」
「……私、男に興味無いから」
「知ってるよ。今は、でしょ?」
「……」
「僕のことも、意識してね」

主人公のように、スポットライトが当たった物語ではないけれど、それでも、僕の物語はとても輝かしいものになるはずだ。

10/29/2024, 12:42:06 PM