私の当たり前は、他の誰かにとっての当たり前とほとんど変わりないだろう。朝起きて学校に行き、授業を受け、他愛ないおしゃべりをし、友達と会話しながら帰宅し、スマホで動画を見て、SNSにつぶやき、ご飯とお風呂を済ませ、明日の準備をして寝て、また朝が来る。そんな当たり前。
「ねえ、僕と契約して魔法少女になってよ」
ぬいぐるみっぽい生き物に言われるまでは、そうだと思っていたんだ。
私が住んでる世界は案外不安定らしい。普通の人には認識できない魔獣と呼ばれる存在がいて、そいつが人に干渉すると生命力が食われ、病気になり、死に至る。ぬいぐるみっぽい生き物は素質ある人間を戦えるようにして、魔獣の発生を突き止め、被害を減らす使命を帯びてるらしい。――私は戦うことを選んだ。
魔法少女の生活は、私の当たり前を犠牲にする行為だった。魔獣がいつ発生するか分からないから常に気を張ってなければならない。休日なんてものは存在しないし、睡眠は不規則になった。
朝は遅刻寸前で登校し、授業中に寝て、友達に「顔色悪いよ」と心配され、早退途中に魔獣の発生報告を聞き出撃して、疲れ果てながら撃破し、家に帰って泥のように眠る。それが当たり前になった。
ある時、今まで比べ物にならないほど強い魔獣が出現して、私は食べられそうになって――――
ピピッ ピピッ ピピッ
スマホのアラームが鳴った。大きな欠伸をして目を開ける。
「夢――か」
いつも通りの朝だ。変な夢を見た。全くもって馬鹿馬鹿しい夢だ。
「ケイ! 魔獣だ! ここから近い!」
当たり前を犠牲にした魔法少女である私が負ける訳ないでしょうに。
「さて、行きますか」
誰かにとっての当たり前を守るために。
[私の当たり前]
7/9/2023, 3:29:24 PM