彼があの剣を岩から引き抜かなかったら。
0点を取ったあの男の子が机の引き出しを開けなかったら。
心優しいあの子の父親が二人の娘を持つ女性を後妻に迎えなかったら。
あのおじいちゃんが騎士道物語に夢を見なかったら。
小さなあの女の子が白いウサギを追いかけなかったら。
あのお猿さんが驕って仏様に挑んだりしなかったら。
だらだらと続く長い坂をあの人が登っていかなければ。
世界の面白さの何パーセントかを私は確実に知らないままでいたのだろう。
物語の始まりは思いがけないものだったり、些細なことだったり、ドラマチックだったり様々で、読み進める度に私の想像の何倍も広い世界や価値観を教えてくれる。
私はあとどれくらい、新しい物語を見つけることが出来るだろう。そしてその主人公達は、最初に何をしているだろう。
私のようにだらだらとSNSを見ている主人公はいるだろうか。
毎日コツコツ病室の掃除をしている主人公はいるだろうか。
そんなシーンから始まる物語がいつか見つかるかもしれない。
あぁ、それにしても。
時間が惜しい。
END
「物語の始まり」
4/19/2025, 5:33:24 AM