可惜夜。そんなものが存在するとしたならきっと今、この瞬間だ。私は砂浜まで星空を見に来た。此処、すごく素敵だね。宝石みたいにころころしてて、きらきらした声で貴女は言った。私は満足気な気分になった。宝石(本気にしちゃいけない)はきっと此処が気に入ると考えていたからだ。私と宝石は2人で隣り合わせになりながら星空を眺めた。潮風が身体に当たって、少し寒かった。その寒さの中、星たちは輝いている。月が自ら輝くことをやめてしまうぐらいに眩しい星月夜だ。私と宝石はそれを静かに眺めていた。
そのうち、宝石は私にこう言った。どうして、僕を、此処に連れてきたかったの。私を見つめて宝石は言った。宝石は優しく笑っていた。私のことをからかいたいようにも見えた(宝石の癖だ)。昔此処に来たとき、貴女の顔が思い浮かんだ。そう言葉を紡いで返した。変なの。宝石はその顔に更に笑みを増して言った。私には喜んでいるように見えた。宝石を見ていると私も頬が緩んだ。
宝石はまた空を見上げた。暗い色をした宝石の瞳にひどく輝く星たちが映って硝子細工のようにきらきら、ころころしている。貴女みたい!そう、宝石は呟いた。私が?星空?とんでもない。でも、宝石が言うのならきっとそうだと思う。貴女は私のことをよく見ているからね。私はこの星空を宝石みたいだと思った。星たちは眠ることを知らずに輝き続けるからね。宝石の元気できらきらしたところにそっくりな夜だ。そう、思った(知ったら笑うかな)__。
また此処に来たいね、今度は僕が連れて行くよ。そう、宝石は言った。また、今度、なんてあってほしくない。ずっとこのままが良い。星たちはきらきらころころ輝きを増す。私はこの可惜夜が明けてしまわぬように願っていた。きっと、また、来ようね。そう、言葉を、返した
3/11/2025, 1:04:54 PM