黒にゃんこ

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こんなに寒いのに砂漠みたいになるのが不思議ですね、って君が言ったのを思い出しながら。
アイスバーンをタイヤに削られてさらさらの氷の粒が積もるのに足を取られつつ、真夜中、君の住むマンションを出てすぐの道を歩く。
国道に出てコンビニを2つ素通りして、久しぶりに一人暮らしの自分の部屋に帰った。

目的の物を持ち出すのにどうしようかと少し考えて、結局寒さの前に見栄など役立たずとあきらめた。
大きなビニール袋を引きずって5分もたたずに部屋を出た。

運良くすぐに捕まったタクシーに乗り込むと、陽気な運転手さんが笑って言った。
「布団かい。大きいから人でも運んでるのかと思ったわ」
「おっきいけどめっちゃ軽いです」
がさがさと音を立てて、片手で大きな荷物を上げ下げして見せる。布団しか入ってません。
「ワンメーターで申し訳ないんですけど◯の◯までお願いします」
「はーい。彼女の所?」
「あー……そうゆう風に言えるようになるといいんですけど……」
力なく笑ってごまかした。
「−9℃の1時過ぎに、自分のために外に出て動いてくれるって愛だなって思いますよ」
「そうかなぁ……」
だったらとてもうれしいのに。

どこから曲がるのと聞いた運転手さんに、道悪いから埋まるかもしれないと国道で下ろしてもらう。
最後までニコニコと笑ってくれたな。
氷の砂の道を戻りながら、子供の頃の優しい記憶に励まされた。
布団の中で寒さに小さく丸まって眠っていると、決まって父が布団を一枚上に足してくれて、襟元をぽんぽんと叩かれると安心した。
もう大丈夫。

それを自分がする側になったんだな。

うまく大人になれているだろうか。

眠る君と黒猫の上に布団をもう一枚かけて、起こさないようにそっと襟元の布団を撫でて馴染ませた。

さあ自分も眠ろうとしてから、煙草を吸いたい欲がきて、リビングの窓を細く開ける。
煙草の煙に目を細めて、嫌そうな顔をされたのを見て初めて猫が表情豊かなのを知った。
禁煙はだいぶ進んでる。1日2本まで減らした。
窓からの冷気はフローリングの素足を容赦なくキリキリと痛めた。
こんなに寒いのに砂漠のトカゲみたいに片足を上げて、反対の足首にくっつける。
左右交互に繰り返し、最後には両手両脚を上げて熱い砂に腹をつけてやり過ごすトカゲの姿をかわいく思う。
半透明の大きなゴミ袋に入れた布団を振り回す自分は少しみっともないけれど。

暑くとも寒くとも、君と一緒にいるために必死で。






「凍える朝」

11/1/2025, 9:11:53 PM