Mey

Open App

雷の音が遠くで響いた。
空は暗く、運動場を吹き抜ける風は冷たい。体育大会の責任者として生徒を見守る俺は、無意識に半袖の腕を組んでいた。鳥肌が立ち、産毛が逆立つ。

校長と教頭を呼び、3人で雷注意報が発令されたことを確認し、体育大会の一時中止を決定する。

グラウンドの指揮台で胸元のホイッスルを吹き、生徒や保護者の視線を集める。放送ブースのテントに入り、放送委員に「天国と地獄」を止めてもらう。

「お知らせいたします。現在、雷が鳴っており、雷注意報が発表されています。騎馬戦を一時中止といたします。生徒の皆さんは校舎内で待機してください。保護者の皆様は体育館へお入りください。」
「ええー!?」
「安全を確認後、再開いたします。」
「神セン、騎馬戦だけやっちゃおうよ!」

騎馬を組む中学生男子が不満を叫び、なかなか崩れない。待機列に並ぶ生徒たちからも、「続けたい!」と声が上がる。
気持ちはわかる。戦況は両チーム互角、休憩後の再開でどうなるかわからない。そして今現在、再開の目処も立っていない。

マイクを切り、テントから出て声を張り上げる。
「早く校舎に入れ! 大切な人を守りたいなら急げ!」

グラウンドから「ヒューっ!」と指笛が響き、冷やかす声が飛び交う。テントを振り返ると、元同僚であり妻である育児休暇中の彩花が穂花を連れて立っていた。彼女の顔は真っ赤に染まり、狼狽えている。

「彩花、穂花。さあ、中に入ろう。」
「はい…剛士さんてば、もう…。」

彩花から穂花を受け取り、そっとグラウンドを振り返る。何人かの男子生徒が、恋人のいるクラスへと駆け出していた。

「思い出に残る体育大会になりそうだな。」
「そうね。」

彩花の微笑みが、雷雲の下でひときわ輝く。遠雷が低く響く。




遠雷

8/24/2025, 5:26:27 AM