そんじゅ

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「私は生きています」

世界に存在する魂の数は一定だ。あらゆる魂はこの地球上で輪廻を繰り返しながら新しい生を目指す。

そんな天上の理を知る由もない人類は、文明発展の勢いに任せ、多くの動植物、時には細菌までも絶滅させた。行くべき道を失った魂は続々と人間へと生まれ変わり、世界人口は限界まで膨れ上がる。

やがて人類の繁栄期も終わり、今度は人間が絶滅を迎える順番がきた。しかし地上の生物は既に死に絶え、膨大な魂の生まれ変われる身体がない。

そのとき神は廃墟で立ち尽くす機械にふと目をとめた。

彼らはここに存在しており、その頭には知性があり、資源と活力が有れば自己増殖できる。ならば魂の入れ物としては充分ではなかろうか。

「私は 生キテ いマス」

低電力モードのせいで品質の落ちた声。
旧式アンドロイドの表情は固く、フェイスカバーの剥げた隙間からは集積回路が透け、哀愁をそそる。

全てが滅んだ世界でついにAIは魂を持つに至った。
もうそれを喜ぶことのできる人間はいないけれど。

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「哀愁をそそる」

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所感:
お題に対し、情けなさや嘲り、笑いといった要素を付加させず、ただただ悲しみだけを味わえる情景をさがしたら、また人類が絶滅しました。いつもすみません。

11/6/2022, 8:54:33 AM